英国独自?チャレンジャー2戦車

外国

ライフル砲を選んだイギリスの主力戦車

かつての覇権国家・イギリスは兵器開発で独自路線を歩むことが多く、主力戦車のチャレンジャー2もその一例といえます。英陸軍で220両以上が配備されているチャレンジャー2はフランスのルクレール戦車など同世代の西側戦車が軒並み滑腔砲を採用するなかであえて「ライフル砲」を選んだことで有名です。

⚪︎基本性能:FV4034 チャレンジャー2戦車

重 量62.5t
※装甲増設時は75.0t
全 長8.3m
全 幅3.52m
全 高3.04m
乗 員4名
速 度整地:時速59km
不整地:時速40km
行動距離約550km
兵 装120mmライフル砲×1
7.62mmチェーンガン×1
7.62mm機関銃×1
価 格1両あたり約6.5〜7億円

チャレンジャー1に代わる主力戦車として1980年代に開発されたチャレンジャー2は見た目こそ大きな変化がないものの、再設計による砲塔の刷新や装甲の強化、射撃管制装置を含む電子機器の更新がされました。また、戦車としては珍しくトイレが設置されているほか、イギリス戦車伝統の紅茶を淹れるための湯を沸かす電気ケトルも装備されています。このあたりはまさに期待を裏切らないイギリスらしさですね。

攻撃力の要となる主砲については強度と安定性を高めた新型ライフル砲を搭載しましたが、同時期に開発された西側戦車とは一線を画すライフル砲を選んだのは英陸軍が使用する「粘着榴弾」という弾の種類によるところが大きいです。安価という利点を持つこの粘着榴弾は簡単にいえば、直撃時に貼り付いて爆発することで装甲を貫きますが、これを用いる場合は滑腔砲よりもライフル砲の方が適しています。

つまり、英陸軍はある意味「特殊な砲弾」を使うがゆえに滑腔砲を使うメリットがあまりなく、一般的に命中率が良いとされるライフル砲を使い続けているわけです。そのかわり、ライフル砲を選択したことでNATO標準の砲弾が使えず、他のNATO諸国と互換性がないというデメリットは否めません。

射撃するチャレンジャー2戦車(出典:イギリス陸軍)

他国とは違うライフル砲を搭載したチャレンジャー2は車内に最大47発分の弾薬を収納できる一方、陸上自衛隊の90式戦車のように自動装填装置が付いていないので4名の乗員を必要とします。しかし、レーザー測定器や赤外線装置、暗視装置による視界の確保とコンピューターを使った射撃管制および情報共有が可能なことから射撃性能は同世代の戦車と比べても決して見劣りません。

優れた防御力も魅力のひとつ?

チャレンジャー2は高い防御力を持つことでも知られており、その秘訣が今でも詳細が非公開の「チョバム・アーマー」という複合装甲です。アメリカのM1A2エイブラムスでも採用されたこのセラミック複合装甲は非常に硬いことから対戦車火器で用いられる成形炸薬弾頭に対しても優れた防御効果を発揮します。実際にイラク戦争では14発以上のRPG-7対戦車ロケット弾の直撃を受けても車内の乗員は無事だったという驚異的記録を残しました。このように実戦で高い防御力をいかんなく発揮したチャレンジャー2も登場からまもなく30年を迎えるため、既存車両のうち148両を「チャレンジャー3」へと近代化改修することになりました。

さて、まだまだ続くことになったチャレンジャー・シリーズですが、近年ではロシアの一方的侵略と戦うウクライナに対して初めて供与される西側戦車として話題になりました。開戦以来、西側戦車を渇望してきたウクライナに対して、イギリスから14両のチャレンジャー2が供与されるわけですが、どこまで戦局に寄与できるかは未知数です。ソ連戦車を見据えて開発されたチャレンジャー2はロシア戦車と十分に渡り合えますが、わずか14両では戦局を大きく変えるには至らないでしょう。また、60トン超えの重量がもたらす行動範囲の制限にくわえて、西側の各種兵器が入り乱れるウクライナ軍の補給や整備をさらに複雑化させる恐れがあります。

ただ、チャレンジャー2供与の発表後にアメリカやドイツがそれぞれM1エイブラムス戦車とレオパルト2戦車の提供にようやく踏み切ったことを考えると、その意義は14両という「数」よりも西側戦車提供の契機となったことでしょう。つまり、チャレンジャー2はフランスのAMX-10RC「軽戦車」とともに、ウクライナが欲する本命のM1エイブラムスおよびレオパルト2を供与する流れを作ったと評価できるのです。

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