まだ世界最強クラスの戦車
最強を誇るアメリカ軍は、その圧倒的な空軍力・海軍力に対して、陸軍はやや印象が薄いのが実情です。
やはり陸軍大国となれば、ロシア・中国が真っ先に思い浮かび、戦車についてもロシアやドイツというイメージがあります。
しかし、アメリカ陸軍はその装備と実戦経験、そして兵站を含む全体運用では頭ひとつは抜きん出ており、主力戦車も傑作と評される「M1エイブラムス」のシリーズです。
このエイブラムス戦車は1981年に登場したものの、改良を重ねながら現在も米陸軍と海兵隊の主力戦車として使われています。
- 基本性能:M1A2エイブラムス(最新型)
全 長 | 9.83m |
全 幅 | 3.66m |
全 高 | 2.37m |
重 量 | 63.3t |
乗 員 | 4名 |
速 度 | 時速67.6km |
行動距離 | 430km(舗装路) 200km(不整地) |
兵 装 | 120mm滑腔砲×1 12.7mm機関銃×1 7.62mm機関銃×1 遠隔操作式銃×1 |
価 格 | 1両あたり約5億円 (改修費) ※調達価格は約15億円 |
第二次世界大戦後、アメリカは対ソ連に向けた戦車開発を進めるも、この分野では戦車大国・ソ連に後れをとっていました。
こうした焦りから生まれたのがエイブラムス戦車であり、その名前はバルジの戦いでドイツ軍を撃退した戦車指揮官・エイブラムス陸軍大将に因んでいます。
設計上は引き続き「避弾経始(敵弾をそらして弾く)」を取り入れつつ、砲塔部分はそれまでの丸っこい形ではなく、傾斜をつけた平面構造にしました。
おかげで溶接加工を多用して時間・コスト節減を図るとともに、被弾時にネジが外れて車内を飛び回る危険性も少なくなりました。
一方、防御面では当初から対戦車ミサイルを想定していたほか、その後も劣化ウラン装甲を採用したり、必要に応じて爆発反応装甲と車体底部の装甲を追加できるようにしました。
また、NBC兵器(放射能・生物・化学)への対策として強力な空気清浄機能が与えられたため、乗員はガスマスクを着けなくても問題ありません。
さらに、弾薬庫は被弾時に上部パネルが吹き飛ぶようになっていますが、これは爆風などを外に逃して乗員を守るのが狙いです。自動消火装置も合わせて設置されており、ロシア戦車のような弾薬誘爆をなるべく防ごうとしています。
さて、気になる攻撃力については、初期型こそ105mmライフル砲を搭載したものの、いまは西側標準の120mm滑腔砲に変わっています。
最初から高性能な射撃管制装置、赤外線カメラを持ち、高い命中率が期待できましたが、その後は劣化ウラン弾の実用化によって装甲貫徹力も大きく向上しました。ただし、自動装填装置は搭載していません。
そして、エイブラムスの欠点としてよく言われるのが、その燃費の悪さです。
これはエンジンが主流のディーゼルではなく、ジェット機と同じ燃料を使うガスタービン型を採用しているからです。
これはディーゼル・エンジンよりも小さくて軽いうえ、高出力と優れた加速性能、冷却水が不要というメリットをもたらしました。
しかしながら、燃費は200m/ℓしかなく、日本の90式戦車より100mも低い数値になっています。当然ながら、燃費が悪ければ、タンクの大型化や給油回数の増加は避けられず、兵站への負担にしかなりません。
それでもガスタービン・エンジンを採用したのは、それを支えるだけの兵站能力がアメリカにはあるからです。このあたりは「さすが」としか言いようがなく、アフガニスタンの基地までマクドナルドやバーガーキングを持っていくだけはあります。
圧倒的な実績と信頼性
もともと対ソ連を見据えて開発されたエイブラムスですが、初実戦は1991年の湾岸戦争で迎えました。
ソ連製戦車で身を固めたイラク軍と戦い、相手の射程外から一方的に攻撃するなど、性能的には圧倒しました。
遭遇したイラク軍の戦車部隊がことごとく敗れたのに対して、エイブラムス戦車の損害はわずか十数両にとどまっています。しかも、その半数が同士討ちによるものなので、敵に撃破された車両はほとんどなく、初陣はまさに「完勝」でした。
ある有名なエピソードでは、泥沼で行動不能になったエイブラムスが、被弾しながらも3両のT-72戦車を撃破したそうです。これが事実だとすれば、エイブラムスは打たれ強く、かなり高い命中率を誇るといえます。
対戦車では無類の強さを示したとはいえ、イラク戦争やアフガニスタン戦争のような非正規戦では思わぬ苦戦を経験しました。
これは全ての戦車に通ずる悩みですが、市街戦では至近距離や四角から攻撃されやすく、特に脆弱な車体上部が狙われやすいのです。ゆえに、エイブラムス戦車も対テロ戦では砲塔ごと吹き飛ばされるなど、それまで見られなかった損害を出しました。
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