航空戦のカギを握る早期警戒管制機に電子攻撃
従来の陸海空のほかに宇宙、サイバー、電磁波の新領域への対処も急がれるなか、日本の陸上自衛隊は電磁波によって航空機やドローンを妨害する「対空電子戦部隊」なる組織の発足を決めました。2024年に新設されるこの部隊は移動式の対空電子装置を使って中国軍の早期警戒管制機などを無効化し、航空自衛隊の航空優勢確保を支援することを目指します。
現代戦では航空優勢(昔で言うところの制空権)を確保することが勝利の条件となりますが、特に地上施設や艦船のレーダーよりも広い探知能力を持つ早期警戒機は重要な役割を担います。「空飛ぶ管制塔」とも称される早期警戒管制機は水平線の影響で探知範囲が限られる地上レーダーと違って広大なエリアをカバーできるほか、高高度からもたらす俯瞰的な視野を使って味方機を指揮および誘導します。このように高いところから戦場を見渡す「目」とチームにおける「頭脳」を兼ね備える早期警戒管制機は双方にとって非常に厄介な存在であり、優先目標として狙われるので早期警戒管制機をいかに守るかが航空戦のカギともなり得るのです。
陸自が新設する対空電子戦部隊は中国軍の早期警戒管制機に高出力の電磁波を浴びせて同機の探知範囲を通常の200〜300kmから100km未満まで大幅低下させます。この電子攻撃によって中国側の探知能力を一時的に制限し、その間に航空自衛隊のF-15J戦闘機などが一気に近づいて撃墜することで航空優勢の確保につなげるわけです。
この対空電子戦部隊がどこの駐屯地に配備されるのかはまだ分かりませんが、いくら高出力でも地上からの電磁波照射は到達距離および高度が限られることから有事の際はC-2輸送機などで南西諸島方面に空輸展開されるものと思われます。そして、展開後は移動式の利点を使った陣地転換を繰り返すことで敵による発見と攻撃を回避して生存性を高めることが可能です。
話題の中国気球も無力化できるか?
さて、この対空電子戦部隊の新設に伴って、米中間で新たな火種となった中国の偵察気球の無力化を目指す動きが出始めました。アメリカ本土上空を飛行し続けた結果、F-22ステルス戦闘機で撃墜された中国気球ですが、これら気球はアメリカ以外にも世界各地で目撃されており、日本でも2020年に仙台上空を飛行していたことが明らかになりました。そこで、対空電子戦部隊による電磁波照射で偵察気球の通信を妨害したり、機能不全に陥れることが検討されています。
まだ謎が多い中国の偵察気球を相手に電子攻撃がどこまで有効かは不明ですが、アメリカが撃墜後に回収した気球の分析を進めているので搭載装置の詳細や通信の仕組みは今後明らかになるかもしれません。そのため、同盟国・アメリカを通じて得た情報をもとに対空電子戦部隊が偵察気球も無効化できるかを検証するのが早いでしょう。
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