航空爆弾をロケット弾に改造した兵器
ロシア=ウクライナ戦争では西側諸国から武器支援を受けたウクライナが善戦を続けるなか、そのウクライナが望む長射程兵器は最後まで供与が渋られました。
奥地にあるロシア軍の重要拠点を叩く目的で、ウクライナはHIMARS高機動ロケット砲から発射できる短距離弾道ミサイル「ATACMS」を望んできましたが、過度な刺激を恐れたアメリカは射程がより短い「GLSDB弾」を代わりに提供しました。
⚪︎基本性能:GLSDB(Ground Launched Small Diameter Bomb)
重 量 | 270kg |
全 長 | 3.91m |
直 径 | 0.24m |
速 度 | 不明(滑空タイプなので遅い) |
射 程 | 約130〜150km |
価 格 | 1発あたり約500万円? |
日本語で「地上発射型小直径爆弾」と呼ばれるGLSDB弾は、「GBU-39」という小型の精密誘導爆弾にロケットブースターを取り付けたもので、あのボーイング社とグリペン戦闘機でも有名なスウェーデンのサーブ社が共同開発しました。
地対地ミサイルにも分類されるものの、実態は航空爆弾をロケット弾化させた安価な兵器であり、もともとは空軍力に乏しい国に対して、安い攻撃オプションを提供する目的で開発されました。
ロケットブースターはHIMARSやMLRS多連装ロケット砲で使われる「M26ロケット弾」と同じですが、これはクラスター爆弾廃止によって余剰部品が多く、弾頭に用いる航空爆弾も在庫が豊富だったことから、比較的安い兵器に仕上がりました。
HIMARSなどから発射されたGLBDSはロケットで一定の高度まで加速したあと、翼を展開してグライダーのように滑空飛行しながら目標に向かいますが、この際に誘導爆弾を改良した利点を生かし、GPSやレーザーによって精密誘導します。
さらに、GLSDBは360度全周にわたる攻撃範囲を持ち、地理的制約を受けずにあらゆる方向を攻撃可能です。
一方、通常のミサイルよりも遅い滑空飛行を用いるため、敵の防空火器に迎撃されやすい欠点が指摘されています。
また、小型爆弾を改造したGLSDBは威力が比較的小さく、大型目標に対する効果は限定的と思われます。それでも、最大で厚さ1.8mのコンクリートを貫通するので、装甲車両はもちろん、航空機を格納する掩蔽壕ぐらいは破壊できるでしょう。
供与によって攻撃範囲が伸長
GLSDBは安価なロケット弾のわりには長射程・高性能を誇り、その射程はATACMSの半分ではあるものの、すでにHIMARSで戦果をあげているウクライナ軍の攻撃範囲がさらに50〜60kmほど伸びます。
初めて実戦投入されるGLSDBですが、発射母体となるMLRSやHIMARSを改良する必要があるため、運用は早くて2023年後半になる見込みです。そうしているうちに、アメリカがようやく重い腰を上げて、ATACMSを供与する決定を下しました。
とはいえ、あくまで少数供与と思われるため、数に余裕があるGLSDBを多用しつつ、貴重なATACMSは戦略的価値の高い目標用に温存するでしょう。
本命ATACMSを供与するハードルを下げた意味でも、費用対効果を考慮した使い分けをするうえでも、GLSDBの果たす役割は大きいといえます。
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