超高速で放つ三本の槍
変わった兵器を多く生み出してきたイギリスは、いまも独特の国産兵器を抱えていて、そのひとつに「スターストリーク」という対空ミサイルがあります。
これは1980年代に開発された近距離防空システムの一種で、通常弾頭の代わりに「ダーツ」と呼ばれる槍状の子弾を目標にぶつけて撃墜します。
- 基本性能:スター・ストリークHVM
重 量 | 14kg |
全 長 | 1.4m |
直 径 | 0.13m |
速 度 | 最大マッハ3.5(時速4,300km) |
射 程 | 5〜7km |
高 度 | 約7km |
弾 頭 | 全長:40cm 直径:2.2cm 重量:本体900g+炸薬450g |
価 格 | 1発あたり約1,800万円 |
冷戦期にソ連軍が重武装の攻撃ヘリを登場させると、英陸軍は従来の近距離ミサイルでは対抗できないと考え、より機動性と速力、射程距離に優れたものを求めました。
さまざまな苦労を経ながら誕生したスターストリークですが、その見た目は前述のダーツが露出状態で3本搭載されている変わったものでした。
超高速で放たれるタングステン合金製のダーツは、弾頭自体が運動エネルギー弾として働くのに加えて、付随の高性能炸薬(450g)が機関砲並みの破壊力を発揮します。しかも、この炸薬は目標に当たった後に起動する遅延信管タイプなので、ダーツ本体が直撃してから時間差で追加ダメージを加えられます。
発射されるスターストリーク(出典:イギリス軍)
このように二段構えで確実にダメージを与えるわけですが、英陸軍が相手を逃さないように高速力を重視した結果、スターストリークは最終加速時で最大マッハ3.5という性能を獲得しました。
これは同じ近距離防空システムであるスティンガー・ミサイル(米)のマッハ2.5と比べても突出していて、純粋な追いかけっこでは狙われた側が負けます。ちなみに、この高速性能は同じく二段構えの燃焼ブースターがもたらしたもので、二段目の燃焼が終了すると先ほどのダーツが発射される仕組みです。
よって、マッハ3〜3.5の状態で発射されたダーツは、運動エネルギー弾としてはとてつもない力を秘めており、直撃すればどんな頑丈な航空機でも無事では済みません。
それは正式名称につく「High Velocity Missile(高速ミサイル)」の名に恥じないものです。
スターストリークは持ち運び可能な3連装発射機に収められていて、備え付けのレーザー照射器で目標にロックオンします。このとき、2つのレーザーを使ってミサイルを誘導しますが、最終的に射出された3つのダーツは半径1.5mの間隔で飛翔しながら目標に当たります。
照準器で狙う兵士(出典:イギリス軍)
ただし、レーザー誘導方式は電波妨害や赤外線妨害には強い反面、ミサイルが当たるまで目標を照準器で追い続ける必要があるため、命中率を期待するには十分な訓練が欠かせません。
この点は撃ちっ放し式のスティンガーの方が使いやすく、実際に命中させる難易度ではスターストリークは劣ってしまいます。
それでも、スターストリークは英国産の防空兵器として現場では重宝されており、車両搭載型やひとりで持ち運べる携行式、ヘリコプターと水上艦船に載せるバージョンもあります。このあたりはアメリカのスティンガーと似ているので、スターストリークは「英国版スティンガー」ともいえる存在です。
12連装の車両搭載型から発射される様子(出典:イギリス軍)
スティンガーよりは扱いにくいものの、さまざまなプラットフォームで運用可能な柔軟性を持つことから、イギリス以外でも南アフリカ、タイ、インドネシア、マレーシアが導入しました。
そして、2022年にはロシアに侵略されたウクライナにも複数が供与され、詳細は不明ながらもロシア軍のドローンや攻撃ヘリを撃墜する戦果をあげたとされています。
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