スティンガーミサイルとは?

アメリカ軍

歩兵が航空機に対抗できる有力手段

本来、歩兵は戦車や航空機と比べると弱い立場にありますが、個人が装備する火力の進化によってもはや一方的に狩られる存在ではなくなりました。例えば、戦車に対しては2022年のロシア=ウクライナ戦争でも注目されたジャベリン対戦車ミサイルが有効であることが証明されたように、反撃手段を持つ歩兵は決して侮れないのです。

これは航空機との関係においても同様であり、特にヘリコプターのように低空飛行する機体は歩兵が持つ携帯地対空ミサイルに十分警戒せねばなりません。そして、この携帯地対空ミサイルの分野で性能及び実績の面で名高いのがアメリカの「スティンガー」です。

⚪︎基本性能:FIM-92 スティンガー(最新型)

全 長1.52m
直 径7cm
重 量ミサイル本体:10.1kg
システム全体:15.2kg
弾 頭1.02kg (高性能爆薬)
速 度マッハ2.5
秒速750m
射 程4,800m
高 度3,800m
要 員2名
価 格1発あたり約1,400万円

英語で「毒針」の意味を持つ「スティンガー」はアメリカが1981年から使っている携帯式防空ミサイルシステム(MANPADS)であり、改良を経ながら現在でも最高峰の性能を持つ携帯地対空ミサイルとして30カ国以上で採用されています。日本の自衛隊も導入したことがあり、現在は国産の91式携帯地対空誘導弾に置き換えられましたが、AH-64アパッチ攻撃ヘリの空対空装備としてはまだ使っているそうです。

システムはミサイル本体に加えて、発射機、敵味方識別装置、バッテリー及び冷却装置で構成されており、総重量は15kg以上になります。これらシステムの操作は通常2名で行いますが、実際は最低1名での運用が可能だそうです。

スティンガーミサイルを構える兵士(出典:アメリカ軍)

では、どうやって使うのか?
射撃時の大まかな手順は、以下のようになります。

① ミサイル本体を使い捨てコンテナから取り出して発射機に装填。
② バッテリー及び冷却装置を取り付ける。
③ 目標を目視で確認したうえで電源を入れてロックオンする。
④ 引き金を引いてミサイルを発射する。

ミサイルの推進は二段階あり、まずは小型ブースターによって発射機から撃ち出されます。そして、数メートル飛翔したところでロケットモーターが点火して、最大マッハ2.5まで加速するわけですが、これは射手に危害を加えないように配慮したプロセスなのです。

発射されたミサイルは赤外線センサーによってエンジン排熱などを捉え、目標を自動追尾するため、発射後の誘導は不要であり、射手は見つかって反撃を受ける前に退避することができます。このように、比較的簡単な準備で発射できるうえ、撃ちっ放し能力を有するスティンガーはかなり使い勝手が良い防空手段として重宝されているのです。

豊富な運用実績と期待できる高い命中率

スティンガーがデビューしたのは1982年のフォークランド紛争であり、イギリス軍がアルゼンチン軍の対地攻撃機とヘリを撃墜したのが最初の戦果と言われています。その後、ソ連のアフガン侵攻を受けて抵抗するイスラム戦士たちに大量に供与され、ソ連軍のヘリを多く撃墜したことで一気に有名になりました。

このアフガン紛争を通じて、スティンガーを使えば正規兵ですらない者でも航空機を単独で撃墜できることが証明され、もはや航空機と歩兵の関係が一方的ではないことを物語ったのです。

その後も、スリランカやシリアの内戦で使われた形跡があり、実際に数機の航空機を撃墜しているため、航空優勢を望めない反政府勢力などにとっては貴重な防空手段となっています。一方、開発元のアメリカも大量のスティンガーを装備していますが、同国が参加した戦争は圧倒的な航空優勢下で戦われているため、実際にスティンガーを使う機会はほとんどありません。どちらかと言えば、以前供与したスティンガーが流出して現在の敵が持っている可能性が高いため、皮肉なことに「使われる立場」とも言えます。

1人でも撃てるスティンガー(出典:アメリカ軍)

ここで気になるの「スティンガーがどれぐらい当たるのか?」という素朴な疑問です。

肝心の命中率については様々な議論がありますが、少なくとも現存する携帯地対空ミサイルの中では圧倒的に高い精度を誇るというのが一般的な評価であり、同分野において最も命中率が高いということでギネスブックに載ったことさえあります。

具体的な数値としては70〜80%と言われていますが、これはスティンガーが注目を浴びたソ連のアフガン侵攻における数字がベースになっていると考えられ、この時アメリカが命中率を79%と算定した一方、実際の命中率は10%程度に過ぎないという主張もあります。

確かに「79%」という数字はスティンガーを使ったイスラム戦士側の自己申告に基づくものが多く、正確性には欠ける部分が多分にあります。しかし、スティンガーがソ連軍ヘリを多数撃墜したのは確かであり、その後も世界各地の紛争で航空機を撃ち落としている戦果を挙げているのも事実です。

そして、現在ロシア軍の侵攻に曝されているウクライナがNATO諸国から2,000発以上のスティンガーを受領しており、ウクライナ側の防空能力を支える一因になっています。現時点で撃墜されたロシア軍機のうち、スティンガーによる戦果がどれほどなのかは不明ですが、今後徐々にその実情が明らかになると思われます。

このように純粋に対空ミサイルとして高い命中率を有するという点から、アメリカ軍は携帯型に加えて、車両や航空機、艦船にまで装備できる派生型を開発しており、近距離防空ミサイルの主力的ポジションを占めています。最も有名な事例としてはスティンガーミサイルをアベンジャー近距離防空システムが挙げられますが、これはNASAMS中距離防空システムとともにアメリカの中枢・ホワイトハウスの防空を担当しています。これら派生型の存在からもスティンガーそのものに対する評価の高さが伺えます。

欠点の有無と後継の可能性は?

さて、携帯地対空ミサイルとしては高い命中率を持つスティンガーですが、欠点がないわけではありません。

まず、既述のように発射時に目標を目視せねばならないので、射手は接近中の航空機に見つかりやすいと言えます。そして、バッテリーの持続時間が45秒程度と短く、運用時の苦悩に繋がっているそうです。

発射されるスティンガーミサイル(出典:アメリカ軍)

また、スティンガーはあくまで携帯地対空ミサイルなので高高度を飛ぶジェット戦闘機は落とせず、低空飛行するヘリコプターや対地攻撃機が主な目標になります。ただ、射程内を低空飛行する戦闘機であれば十分な脅威を与えることは可能であり、撃墜にまで至らなくとも回避運動を強いるなど、飛行妨害には繋がります。歩兵が神出鬼没的にスティンガーを撃ってくる可能性があるというだけで空を飛ぶ側は大きな緊張と不安に苛まれます。この高い命中率を誇るミサイルをいつ、どこから撃ってくるか分からないという心理的効果は絶大であり、空における敵の活動を制約できるのです。

こうして見るとスティンガーは携帯地対空ミサイルとしての致命的な欠点はなく、度々改良されているので最新型は初期に比べて射程と到達高度が大きく伸びており、赤外線センサーも紫外線領域や赤外線妨害装置へ対応するようになりました。

しかし、さすがのスティンガーもずっと現役というわけにはいかず、後継の開発が取りざたされています。現在の在庫はあと10年間は使う予定であり、次期携帯地対空ミサイルは2026年頃に採用される見込みです。ただ、開発が難航したり、ウクライナでの戦闘におけるスティンガーの有効性が改めて証明された場合、新規開発ではなくスティンガーのさらなる改良型で落ち着くかもしれません。

関連記事:91式携帯地対空誘導弾の性能

1 ・・・次のページ

コメント

タイトルとURLをコピーしました