一刻を争う命を救う「機上の病院」
航空自衛隊と言えば「戦闘機」を思い浮かべる人が多いですが、一般的にはあまり知られていない様々な部隊があります。その一つが「航空機動衛生隊」であり、これはコンテナ型の医療設備を飛行機に載せて、急患を迅速に輸ぶ部隊です。
小牧基地を拠点に約20名の隊員で構成される機動衛生隊は、2006年に発足した比較的新しい部隊ですが、既に多くの急患搬送や災害派遣任務をこなしてきました。急患搬送と言えば、海自のUS-2飛行艇が取り上げられることが多いですが、機動衛生隊の特徴は搬送中も本格的な医療行為を施す設備と能力を有していること。
つまり、危篤の患者をより医療設備の整った病院へと搬送している間にも容態悪化を防ぐための治療を継続できるわけですが、この空の上での医療行為を実現したのが「機動衛生ユニット」と呼ばれるコンテナ型の医療装備です。
⚪︎基本性能:機動衛生ユニット
全 長 | 5.1m |
全 幅 | 2.5m |
全 高 | 2.4m |
収容人数 | 3名 |
要 員 | 4名 ・医官 ・看護師 ・救急救命士 ・管理要員 |
装 備 | 水18L 酸素60L 人工呼吸器 生体情報モニター 超音波診断装置 心肺蘇生装置など |
価 格 | 1個あたり約6,000万円 |
機動衛生ユニットは1個あたり最大3名の患者を収容可能で、C-130H輸送機に最大2個まで搭載可能です。大きな病院の集中治療室(ICU)とほぼ同じ機能を有しており、ユニット内にはベッドと照明に加えて、人工呼吸器や生体情報モニター、心肺蘇生装置などの各種機器が設けられており、医官を含む4名体制で常時患者の管理及び治療にあたります。

コンテナそのものは飛行中の使用を前提としていることから防音性に優れており、飛行機の計器と医療機器が相互干渉しないように電磁波をブロックする仕組みにもなっています。そして、実際の任務ではパイロットはユニット内の医療チームと常に相談しながら、患者の容体に悪影響を及ぼさないように飛行するそうです。
現在は小牧基地の航空機動衛生隊に3個が配備されており、ドクターヘリでは対応できないような重傷者及び危篤者の長距離搬送に従事しています。この急患搬送は都道府県知事からの要請に基づく災害派遣の一種であり、やはり地方から大都会への搬送が多いようです。
このように文字通り国民の生命を救っている航空機動衛生隊ですが、日々の訓練と実際の搬送を通じて機上での医療行為を研究している側面もあります。有事における死傷者を前提とする軍隊にとって、負傷した味方をいかに早く後方に輸送するかというのは大きな課題です。
通常、陸送が身近な手段となりますが、時間との勝負という点では航空機による搬送(航空医療輸送)が最も適切な方法になります。そして、この航空医療輸送の体制が構築されていることは、味方にいざという時は救われるという安心感を与え、士気の維持・向上に繋がるわけです。
最後に、機動衛生隊に興味を抱いて「どうしたらなれるのか?」という疑問をお持ちの方に向けて。航空自衛隊には多岐にわたる職種があり、その一つに「衛生」がありますが、機動衛生隊はいわば衛生分野における特殊部隊なのでハードルは高いです。
したがって、幹部(士官)として入隊し、機動衛生隊への配属を目指すのが良さそうですが、その場合は以下のようなルートが考えられます。
① 防衛医科大学→航空自衛隊幹部候補生学校(医科歯科看護課程)
② 医療資格を取得→航空自衛隊幹部候補生学校(公募幹部課程)
少人数の特殊部隊に配属される可能性は決して高いと言えませんが、「空飛ぶICU」に携われる仕事は空自だけですから、十分目指す価値とやりがいはありそうです。
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