世界最高峰の飛行艇US-2

海上自衛隊

第二次世界大戦期の名機を継承する存在

海の守りを担当する海上自衛隊は「海上救難」も任務の一つであり、そのための専用飛行艇「US-2」を保有しています。もちろん、海上救難は海上保安庁の範疇になりますが、海上自衛隊も必要に応じて同様の活動を行います。ただ、海自が救難機を運用する本来の理由は、有事で撃墜されて脱出したパイロットおよびクルーを救助するためです。

⚪︎基本性能:US-2救難飛行艇

全 長33.3m
全 幅33.2m
全 高10m
最高速度時速580km
航続距離4,700km
乗 員11名
着水可能波高3m
価 格1機あたり約120億円

US-2は1996年に開発がスタートし、2007年に初配備が行われましたが、製造は新明和工業が担当しています。実はこの新明和工業の前身は戦前の川西航空機であり、日本海軍の名機「二式飛行艇(二式大艇)」を作った会社として有名です。

当時、二式大艇は世界最高の性能を持つ飛行艇として敵味方の双方から評価されており、第二次世界大戦における傑作機の一つとして数えられます。このように名機を作った技術を活用したUS-2は、救難飛行艇としては現在も世界最高峰の性能を誇ります。

US-2救難機(左)と二式大艇(右) 出典:海上自衛隊

まず、救難飛行艇にとって重要なのは、「航続距離」と「荒波でも着水できること」。航続距離については片道2,000kmは飛行できるため、本州〜小笠原諸島などは十分カバーできます。実際、日本最東端の島・南鳥島(本州から1,800km)で怪我人が出た際は本機が緊急搬送しています。

そして、US-2は波高3メートルまでならば着水することができるため、冬季を除けば日本近海はおおよそ対応可能です。他国の飛行艇の着水可能波高は1〜2mであるため、波高3メートルでも着水可能というのは異例といえるでしょう。US-2は荒波でも安全に着水するために、海面の記録から自動的に波高・波長を解析する計測機器を搭載しています。また、コンピュータによる電子制御(フライ・バイ・ワイヤ)や自動操縦装置の救難任務専用モードを使うことで、パイロットの負担が大幅に軽減されます。

実際に大活躍するUS-2

海上自衛隊のUS-2保有機数はわずか7機ですが、今まで多くの実績を残しています。

まず、救難要請を受けたUS-2は現場海域までなるべく最短距離で飛びます。US-2以前の機体は与圧されていなかったため、低気圧帯・高高度は迂回を余儀なくされていました。その反面、US-2はキャビンが与圧されているため、最短距離で現場海域まで向かえます。

海域に到着次第、海面を監視する赤外線装置や要救助者の座標をヘルメット内に表示する目標捕捉装置を使って捜索します。そして、救助を行なった後は離水するわけですが、時速90km・滑走距離280mという大型機としては驚異的な短距離離陸性能を持ちます。

US-2は車輪も装備しているため、通常の飛行場にも離着陸可能です。しかし、飛行場のない離島では急患が出た場合は、船・ヘリ・飛行艇に手段が限られます。この中でUS-2が最適な選択肢なのは明らかですね。本機は実際に離島の急患搬送に毎年出動しており、島民の命を左右する緊急時のライフラインと化しています。

離水するUS-2(出典:海上自衛隊)

このように救難機として優秀なUS-2ですが、ここで有名な救助例を2つ紹介したいと思います。まずは、2013年にヨットで太平洋を横断中だったキャスター・辛坊治郎を救助した例です。宮城県沖合1,200kmで漂流していた有名人の辛坊治郎を救助したことで、US-2が世間で一時期話題となりました。

もう1つは1992年1月に墜落したアメリカ空軍のF-16戦闘機のパイロットを救助した事例です。日本から東に1,100kmの太平洋上に墜落したパイロットは真冬の荒波を5時間漂流した後に、駆けつけたUS-2に無事救助されました。実はこの時に救助されたパイロットが2015年に在日米軍司令官のドーラン中将として日本に着任するわけですが、ドーラン中将は就任式でこの件について言及し、後に救助してくれたUS-2とその搭乗員を訪ねています。

US-2の今後はどうなる?

既に傑作飛行艇の仲間入りを果たしているUS-2ですが、1機あたり120億円という高コストがネックとなっています。もともと、現代において飛行艇自体がそこまで需要が高くないという事情もありますが。そこで、民間の受注と海外輸出を模索することでコスト減を狙っていますが、進捗は芳しくありません。

民間向けでは旅客機タイプや消防庁向けの案が出ているものの、初期費用や需要の面で実現性は低いです。また、輸出ではインドを含めた東南アジア諸国がターゲットであり、特にインドは大きな関心を示していました。一時期はインドと15機の契約が締結される方向で進んでいましたが、先方の予算不足(つまりUS-2が高すぎる)で頓挫しました。

確かにUS-2は救難飛行艇としては「右に出る者はない」と言われるほど高性能ですが、それゆえに高価であり、整備を含めた扱いが難しいのです。そこまでの性能を求めないのであれば、より廉価なロシア製や中国製に傾いてしまうのが現状です。それでもUS-2は輸出できそうな日本の防衛装備品の中では、いわゆる目玉商品であり、輸出を見据えたコストダウン版も検討されています。

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