陸自の高性能な自走対空砲として
陸の王者・戦車は空からの攻撃に弱く、対空火器を持たない陸上部隊は航空攻撃に一方的に晒される運命にあります。実際、第二次世界大戦で欧州を席巻したドイツ軍の戦車部隊も制空権を失った後は連合国軍機の餌食になることが多かったのです。そこで、陸上部隊の防空能力を強化するために、「対空戦車」という装備が生まれました。
地上から航空機に対抗する手段としては対空砲がありますが、この対空砲を移動できるように車両に乗せたのが対空戦車、後の自走対空砲です。そして、携帯式対空ミサイルが登場する前は、この自走対空砲が陸上部隊の防空の要でした。
⚪︎基本性能:87式自走高射機関砲
全 長 | 7.99m |
全 幅 | 3.18m |
全 高 | 4.40m |
重 量 | 38t |
乗 員 | 3名 |
速 度 | 時速53km |
航続距離 | 300km |
兵 装 | 35mm対空機関砲×2 |
射程距離 | 最大5,000m |
射高距離 | 最大4,000m |
価 格 | 1両あたり約14億円 |
戦後、陸上自衛隊はアメリカ軍から供与された自走対空砲を使っていましたが、旧式装備であったため、87式自走高射機関砲を開発して置き換えることにしました。当時、評価の高かった西ドイツの「ゲパルト自走対空砲」を参考に作られ、高性能な機関砲で知られるスイス・エリコン社の35mm対空機関砲を左右に1門ずつ装備しています。

砲塔の後部に設置された索敵用と追尾用のレーダーによって20kmほどのエリアをカバーできますが、それぞれのレーダーを使い分けることで、射撃中でも他の目標を捜索する能力を有します。他にも、バックアップ用としてカメラやレーザー、赤外線を用いた光学追尾装置を備えており、電波妨害を受けても対空射撃ができます。ちなみに、格納式でもあるこれらレーダー装置は後ろに倒すことで全高を3.25mまで抑えられ、待ち伏せ攻撃などに有利です。
両脇の35mm機関砲は、4,000メートルの有効射程と毎分1,100発の発射速度を誇る高性能なものであり、それぞれ300発以上の弾数を装填してます。通常の航空機やミサイルであれば、35mm弾が直撃すれば撃墜できるため、自走対空砲としては申し分ない性能を持っています。また、この機関砲は「準戦車」とも言われる89式装甲戦闘車と同じ装備であり、対地攻撃にも用いられます。
しばらくは現役続投の「ガンタンク」
左右に機関砲を構え、起動するとレーダーが起き上がる姿から、87式自走高射機関砲は「ガンタンク」の愛称で広く知られており、自衛隊装備品の中でも愛称のネーミングが最もしっくり来ると言えます。
現在でも自走対空砲としては高性能の部類に入る陸自ガンタンクですが、1両あたり約14億円の高価格が災いして配備数は52両に留まりました。陸軍国のドイツとは一概に比較できませんが、87式自走高射機関砲が参考にしたゲパルトは500両以上が生産されました。

自衛隊しか納入先が存在しない国産装備品には必ず付きまとう悩みですが、少数生産による単価の高騰はガンタンクも例外ではありませんでした。生産された52両のうち、そのほとんどが北海道に配備されて今でも現役ですが、小型対空ミサイルの普及によって自走対空砲そのものが時代遅れになりつつあります。
今では歩兵も携帯式対空ミサイルを有しており、海外ではより重層的な防空網の構築を目指して、自走対空砲に小型対空ミサイルを追加する改修を行なっています。しかし、87式自走高射機関砲はこうした改修を受ける予定はなく、後継についても特に構想が出ていないため、将来的には淘汰されていくでしょう。
ただ、高性能な自走対空砲であることには変わりなく、搭載された機関砲は最近その脅威度と有効性が注目を浴びているドローンを撃墜するには十分です。また、中距離及び近距離の対空ミサイルの配備が進められているとはいえ、その数は圧倒的に不足しており、自走対空砲は最後の砦としてまだまだ活用できます。したがって、陸自のガンタンクはまだしばらくは現役のままであり続けるでしょう。
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