掃海艇との違い
海上自衛隊には「海の地雷」と呼ばれる機雷の除去を担当する掃海部隊がありますが、そこに属する船が掃海艇と掃海母艦です。掃海艇は実際に機雷の除去を行う小型船であり、小回りの利くサイズと機雷に反応しにくい木製や強化プラスチックの船体が特徴的です。一方、掃海母艦は護衛艦に匹敵する大型艦であり、掃海部隊の司令部としての役割や掃海艇への補給機能を有します。つまり、掃海母艦は小ぶりな掃海艇の「母船」のような存在と言えます。
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⚪︎基本性能:うらが型掃海母艦
排水量 | 5,650t (基準排水量) |
全 長 | 141m |
全 幅 | 22m |
乗 員 | 160名 |
速 力 | 22ノット (時速40.7km) |
航続距離 | 不明 |
兵 装 | ・76mm速射砲×1 (2番艦「ぶんご」のみ) ・機雷敷設装置×1 |
価 格 | 1隻あたり約300億円 |
掃海艇を指揮し、補給も行う掃海母艦ですが、実はこの種の艦艇は海上自衛隊の「うらが型」だけです。海自では、掃海母艦と機雷敷設艦を別々で運用していましたが、「うらが型」はその後継として母艦機能と機雷敷設機能を統合した艦になります。そのため、本級2隻は掃海艇とは異なり、機雷を敷設する機能を有しており、艦尾両側の扉から最大230発の機雷を投下可能です。
ここで「専守防衛の日本がどうして機雷敷設を?」を思うかもしれませんが、機雷は敵を寄せ付けないことで重要な航路や港湾を防衛でき、敵の動きを封じる、または活動範囲を限定するという点では守る側に有利な状況を作り出せます。つまり、使い方によっては「防御的」な兵器と言えるのです。他にも、対機雷戦における掃海部隊の技量向上には訓練が必須ですが、その際に訓練用の機雷を敷設する能力がなければ何も始まりません。

逆に、掃海母艦そのものは対機雷戦能力を持っておらず、味方の掃海艇や掃海ヘリコプターを指揮及び支援するのが任務です。そのため、戦うことは目的としておらず、武器も数挺の12.7mm重機関銃以外は、2番艦「ぶんご」が76mm速射砲を1門備えているに過ぎません。
掃海ヘリを使った対機雷戦では、ヘリ用の飛行甲板とドックに格納した航空機用の掃海装備(航空掃海具)を使います。この航空掃海具は、艦尾中央の扉から投下され、使用・回収後は格納庫で整備します。
母艦としての充実した機能
また、「母艦」であることから、司令部施設と手術室を含む医療設備が整えられており、水中で機雷を処分する隊員のための減圧室も存在します。いつもは小ぶりの掃海艇に乗る隊員にとっては、大型の掃海母艦内の各施設(風呂や食堂、売店)は良いリフレッシュになるようです。当然、掃海艇への補給も任務の一つであるため、補給物資を集積するスペースが設けられており、補給の際は掃海艇に横付けして物資を受け渡します。

この母艦としての機能は災害派遣でも大いに役立っており、2011年の東日本大震災の際には物資輸送や被災者の医療・入浴支援、食事提供などで貢献しました。200発以上の機雷を格納するスペースは室温管理が徹底されているため、開放すれば臨時の避難所として使えるのです。このように、掃海母艦の機雷戦における支援能力は災害派遣でも十分発揮できるポテンシャルを秘めています。
そんな掃海母艦2隻は就役から20年以上経ちますが、後継について具体的な話は出ておらず、当面は現役を続ける見込みです。ただ、機雷戦能力を持つ「もがみ型」フリゲートの登場と慢性的な人手不足を考えれば、海自が後継の掃海母艦を新造する可能性は低いでしょう。
むしろ、純粋な意味での掃海部隊は今後縮小する方針であり、水陸両用戦部隊として統合された艦隊の旗艦が従来の掃海母艦の役割も兼務すると思われます。したがって、世界唯一の掃海母艦「うらが型」を目にする機会はもう少ないのかもしれません。
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