ロシア唯一の空母として
「航空母艦(空母)」というのは戦力投射に欠かせないうえ、大国の力を体現する分かりやすい兵器です。
そのため、維持費を含めてかなり財政的負担が大きいにもかかわらず、無理してでもこの「力の象徴」を保有する国は多いです。
そのひとつがロシアであり、同国唯一の空母「アドミラル・クズネツォフ」は経済不況の中でもなんとか維持してきた反面、トラブル続きで「呪われた空母」という不名誉な別名を持ちます。
⚪︎基本性能:空母「アドミラル・クズネツォフ」
排水量 | 53,000t(基準) |
全 長 | 305m |
全 幅 | 38m |
乗 員 | 1,690名+航空要員626名 |
速 力 | 29ノット(時速54km) |
航続距離 | 約15,700 km |
兵 装 | 30mm CIWS×6 複合型CIWS×8 対潜ロケット砲×2 垂直発射装置(VLS)×204 対艦ミサイル用×12 対空ミサイル用×192 |
艦載機 | 戦闘機24機、ヘリ6機など |
建造費 | 不明 |
現在のウクライナで建造された「アドミラル・クズネツォフ」は、1990年の就役から1年後にソ連崩壊に見舞われるという幸先の悪いスタートを切ります。こうした混乱のなか、所有権を巡ってロシアとウクライナが争い、最終的には新生・ロシア海軍の北方艦隊に配属されました。
ちなみに、正式名称は「アドミラール・フロータ・サヴィエーツカヴァ・サユーザ・クズニェツォーフ(ソビエト連邦海軍元帥・クズネツォフ)」という世界一長い艦名です。
長ったらしい名前を持つこの空母は、開発時の紆余曲折によって原子力機関とカタパルト装備は諦め、スキージャンプ台で艦載機を飛ばした後、アレスティング・ギアで着艦させる方式にしました。
このあたりは同じスキージャンプ方式を採用しつつ、着艦はF-35戦闘機の垂直着陸機能を使うイギリスの「クイーン・エリザベス級」と異なります。
そんな「アドミラル・クズネツォフ」の艦載機は「Su-33戦闘機」を主力としつつ、早期警戒・対潜哨戒用のヘリも搭載できます。一応、最大搭載数は戦闘機30〜35機、ヘリ20機前後とされていますが、実際はもっと少ない数で運用しているようです。
長年にわたってまともな訓練もできず、いろんな不具合に直面している状況を考えると、本当の航空運用能力は限られてしまいます。おそらく、能力的な適正戦力は戦闘機20〜24機、ヘリ6〜10機あたりではないでしょうか。
重武装・高い戦闘力を誇る
航空運用能力ではアメリカの原子力空母にはおよばない反面、「アドミラル・クズネツォフ」はソ連空母によくみられる重武装が特徴的です。
30mm CIWSだけでも6つあるうえ、30mmバルカン砲とミサイルを組み合わせた独特の複合型CIWS「コールチク」も8つ搭載しています。
これに加えて、対艦ミサイルと対空ミサイル用のVLSも多数備えていて、後者はいたっては192セルも搭載しました。しかも、この対艦ミサイルは600kmという長射程を誇り、人工衛星と連動して遠方目標も捉えられます。
そして、これら各種兵器を支えているのが、約80個の目標を同時追尾可能とされている固定式のフェーズド・アレイ・レーダーです。
ところで、なぜ空母に対艦ミサイルまで載せるのかというと、前述のSu-33戦闘機の搭載能力が限られているから。これはスキージャンプ方式の発艦にともなう重量制限と戦闘機自体の性能的限界に起因します。
このように、あれこれ詰め込んで重武装・高い戦闘能力を獲得した結果、「アドミラル・クズネツォフ」は純粋な空母ではなく、重航空巡洋艦に分類されるケースもあります。
本来、空母というのは個艦戦闘能力が弱く、護衛艦の随伴を必要としますが、このロシア空母はそれをくつがえす存在になりました。
コメント