困難な深海のレスキュー任務
潜水艦は海中というと特殊な環境下で活動することから、軽微な事故でさえ「死」に直結しやすく、海面に浮上できなければ生存率は一気に下がります。
こうした浮上できない潜水艦の救難手段は、ある程度は確立されていて、出番となるのが「潜水艦救難艦」という特殊な船です。
⚪︎基本性能:「ちはや型」「ちよだ型」潜水艦救難艦
ちはや型 | ちよだ型 | |
排水量 | 5,450t (基準) | 5,600t(基準) |
全 長 | 128m | 128m |
全 幅 | 20m | 20m |
乗 員 | 125名 | 約120名 |
速 力 | 21ノット (時速38.9km) |
20ノット (時速37km) |
航続距離 | 最大6,000海里 (約11,110km) |
6,000海里以上 |
装 備 | 深海救難艇×1 無人潜水装置×1 |
深海救難艇×1 無人潜水装置×1 |
価 格 | 約500億円 | 約508億円 |
早い時期から潜水艦救難艦の重要性を理解していた海上自衛隊は、初代「ちはや」を始めとして、「ふしみ」「ちよだ」と運用してきました。そして、現在はそれぞれ2代目の「ちはや」「ちよだ」が第1潜水隊群(呉)と第2潜水隊群(横須賀)に配備中です。
これら救難艦が誇る特殊装備としては、潜水艦のハッチに直接取り付いて乗組員を救い出す「深海救難艇(DSRV)」があります。この小型潜水艇は「水圧地獄」の深海でも優れた耐圧性を発揮でき、潜航可能深度は海自潜水艦をも超える最大2,000mといわれています。
この耐圧性能のおかげで水圧に潰されずに潜水艦まで到達できるものの、全長15mほどの潜水艇が一度に運べる人数は約10名が限界です。母艦である救難艦との往復に約5時間かかる点を考えると、約70名の潜水艦乗組員を全て救うにはかなりの時間を要します。
ただし、あとで登場した「ちよだ」のDSRVは、「ちはや」のものより運動性と耐圧性で少し上回り、定員も12名から16名に増えました。
通常2名の操縦士が乗り込むDSRVは、探知ソナーとサーチライト、カメラを使いながら暗い深海での捜索を行い、障害物を取り除くアームも備えています。
一方、蓄電池を動力源としている関係から、活動時間と捜索範囲は限られます。こうした状況のなか、酸素が減っていく潜水艦を早急に見つけるためにも、長時間駆動が可能な無人潜水装置と組み合わせるケースが多いです。
また、海底を捜索するこれら特殊装備は、潜水艦救出以外にも事故などで墜落した航空機を探すときにも使われてきました。

深海から救出された潜水艦の乗組員は、急激な水圧差によって生じる「潜水病」に陥りやすく、これを想定して救難艦には減圧室と手術室が完備されています。
ちなみに、初代「ちよだ」は潜水艦に対する補給や乗組員の休養を目的とした母艦機能がありましたが、現在運用中の2隻ではなくなり、代わりに医療能力を強化しました。
世界的に稀な単独での救難体制
さて、潜水艦の運用国が多数いるなか、高価な潜水艦救難艦とDSRVを持つ国は意外に少なく、欧米諸国はNATO内で共同システムを作り、以前は救難艦を保有していたアメリカも、今はDSRVのみを別の潜水艦に乗せて救う方式に切り替えました。
これに対して、日本は単独で潜水艦救難艦と120億超えのDSRVを2隻ずつ保有している珍しい国で、海洋国家にふさわしい救難体制を確立しています。
海中で活動する潜水艦は、水上艦と比べて事故や被弾時の生存率が極端に低く、救難体制の確立は乗組員の士気や安心感に直結するものです。
仮に絶望的な状況であっても、「助けに来てくれる」態勢が整っていれば、微かな希望を抱くことができます。そして、こうした心理的影響は非常時には生死すら分け得るのです。
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