準戦車?89式装甲戦闘車の役割

車両・火砲

運んで一緒に戦う歩兵戦闘車

陸戦では戦車を思い浮かべる人が多いでしょうが、最終的に敵陣を制圧・占領するのは歩兵です。陸の王者と言われる戦車も単独では敵の歩兵に撃破される恐れがあるため、通常は味方の歩兵部隊を随伴させます。しかし、歩兵の足では戦車に同行できないため、彼らを運ぶ車両が必要となります。当然、大型トラックの荷台に乗せる選択肢もあるものの、戦場に赴く前提ならば装甲車が望ましいでしょう。

そこで、装甲兵員輸送車なるものが登場するわけですが、これは本当に運ぶだけの存在でした。そのため、歩兵を戦場に安全に運ぶだけではなく、戦闘に参加して歩兵を十分支援できる車両が追求されるようになりました。それが歩兵戦闘車と呼ばれるものであり、「運ぶ+火力支援」という機能を持ちます。

装甲兵員輸送車も機関銃などの一定の火力を備えており、装甲車両なので歩兵の盾ぐらいにはなれます。一方、歩兵戦闘車は20mm以上の機関砲と対戦車ミサイルを装備していることが多く、歩兵にとっては非常に心強い「準戦車」のような立ち位置と言えます。つまり、装甲兵員輸送車と歩兵戦闘車の違いは、本格的な戦闘参加を前提とした能力を有しているか否かです。

日本初の歩兵戦闘車として

冷戦期に各国が歩兵戦闘車の開発を次々と進める中、陸上自衛隊も負けじと1980年代に開発をスタートさせます。特に、アメリカが開発したM2ブラッドレー歩兵戦闘車は、それまでの車両よりも重武装かつ良好な機動力を有したことから、自衛隊にも大きな影響を与えました。その結果、1989年には日本初の歩兵戦闘車である「89式装甲戦闘車」が誕生し、同時期に開発された90式戦車とともに仮想敵のソ連軍を北海道で迎え撃つ構想でした(皮肉にも配備の開始直後にソ連が崩壊)。

⚪︎基本性能:89式装甲戦闘車

全 長6.8m
全 幅3.2m
全 高2.5m
重 量26.5t
速 度時速70km
乗 員3名+搭乗7名
兵 装35mm機関砲×1
7.62mm機関銃×1
79式対舟艇対戦車誘導弾×2
※車内に予備弾2発搭載
価 格1両あたり約7億円

自衛隊では歩兵のことを普通科と呼ぶため、本車には歩兵戦闘車ではなく、装甲戦闘車という名称がつけられました。「ライト・タイガー」という愛称で呼ばれることもありますが、部隊内では「FV(Fighting Vehicle)」で親しまれているそうです。

車体には防弾鋼板が使われているため、それまでの装甲車よりも防護力が向上しています。ちなみに、2014年の御嶽山噴火では降ってくる噴石にも耐えられる装甲を持つ本車が4両投入され、行方不明者の捜索活動に従事しました。

元々、90式戦車と一緒に行動する前提で作られており、それに随伴できるだけの速力と不整地を走行できるキャタピラを備えています。また、本車は兵員輸送車でもあるため、7名の歩兵を運ぶだけのスペースが設けられています(詰めて座ればもう1名乗れるとのこと)。7名という数字は少ない気もしますが、他国の歩兵戦闘車と比べてもそこまで遜色ありません。例えば、米軍の有名なM2ブラッドレーは6名、本車開発時にライバルとして想定したソ連のBMP-2は7名です。

射撃する89式装甲戦闘車(出典:陸上自衛隊)

火力については、M2ブラッドレーを上回る35mm機関砲を中心に強力な火力支援を行うことができ、車体側面に79式対舟艇対戦車誘導弾を2発装備していることから火力と装甲で勝る敵戦車に出くわした際もこれを撃破することが可能です。また、このミサイルは上陸用舟艇に対しても使えるため、本車を沿岸部に配置すれば敵の上陸前に一定のダメージを与えられます。

他にも、一見不思議な装備としてガンポートというものがあります。これは、車内の歩兵が銃を外に出して撃つための小さな穴(銃眼)のことであり、日本の城でもよく見られます。実用性に疑問はありますが、都市戦闘では有効との意見もあります。

高いがゆえに少ない配備数

さて、各国の歩兵戦闘車に引けを取らない89式装甲戦闘車ですが、惜しいのは配備数が少ないことです。最終的に調達された数はわずか68両であり、セットで戦うことを想定していた90式の341両をはるかに下回ります。これは本車の価格が1両あたり約7億円というのが主な原因ですが、そもそも歩兵戦闘車というのは高コストな装備なのです。

既に言及したように、歩兵を運ぶだけならばより廉価な装甲兵員輸送車で十分です。そこに本格的な戦闘力を追求すれば当然コストは高くなるため、陸軍重視の国もしくは予算に余裕のある国が歩兵戦闘車を開発・導入しているのが現状です。つまり、あれば非常に助かる存在ですが、「必須」とまでは言えない装備でもあります。

高コストな歩兵戦闘車(出典:陸上自衛隊)

陸上自衛隊も89式装甲戦闘車の全国配備は当初から想定しておらず、あくまでソ連軍と対峙する北海道の部隊を中心に配備するつもりでした。実際、本車は陸自唯一の機甲師団である第7師団の普通科連隊に集中配備されていますが、旧式の装甲車を全て置き換えるだけの数を調達できませんでした。そのため、第7師団でさえ一部は未だに旧式車両を使っているのが現状です。

このように見ると、89式装甲戦闘車は十分な性能を有する歩兵戦闘車ですが、90式戦車とセットで開発した割には、最終的な調達数が90式のそれに全く及ばなかったのは予想外かつ残念です。

こうなると、気になるのが後継車の有無についてですね。後継については、2008年に「近接戦闘車」の名称で防衛省で検討されましたが、具体的な開発までは至りませんでした。その後、中国の海洋進出を見据えた「水陸両用装甲車(AAV-7)」の導入が優先課題とされたのもあり、新たな歩兵戦闘車の必要性は薄れました。したがって、89式装甲戦闘車の後継車については全くの白紙状態です。

⚪︎関連記事:M2ブラッドレー歩兵戦闘車とは?

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