買い物失敗?陸自AH-64D攻撃ヘリ

航空機
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「空飛ぶ破壊力」とも称される名機

陸戦の王といえば「戦車」ですが、その戦車が苦手とするのが航空機、特に攻撃ヘリです。ヘリはその場で滞空しながら機関砲やミサイル・ロケットを使ってほぼ一方的に戦車を破壊できる存在。ただ、攻撃ヘリも無敵というわけではなく、戦闘機と比べて速度と機動力で劣る分、対空ミサイルには弱いと言えます。

あくまで専守防衛を主軸とする日本の自衛隊も、戦車を含む敵軍の上陸を想定して攻撃ヘリを運用しています。陸自は90機のAH-1Sコブラを長年にわたって配備してきましたが、その後継としてAH-64Dアパッチ・ロングボウの導入を決めます。

⚪︎基本性能:AH-64Dアパッチ・ロングボウ

全 長17.76m
全 高4.95m
乗 員2名
速 度最高:時速360km
通常:時速270km
航続距離490km
※最大1896km
兵 装30mm機関砲×1
対戦車ミサイル
対空ミサイル
ロケット弾
価 格1機あたり約95億円

アパッチシリーズは米軍が初期型AH-64Aを1980年代に運用を開始しており、発展型を経ながら湾岸戦争やイラク戦争で大きな戦果を挙げています。近年ではアフガン戦争の対テロ作戦にも頻繁に投入され、圧倒的火力を用いた制圧に重宝されました。

AH-64Dは初期型AH-64Aと比べて28倍の能力を持つと言われており、特に情報共有を通じた味方との連携力は飛躍的に向上しました。他のヘリや地上部隊と目標に関するデータを共有することで統合的な戦闘と精密な攻撃を可能にしつつ、誤射の低下に繋がっています。また、コックピットは計器類の大幅削減とディスプレイの設置によってパイロットの負担を減らし、赤外線を含む各種センサー類が目標を昼夜問わず鮮明に捉えます。

陸上自衛隊のAH-64D(出典:陸上自衛隊)

さらに、搭載している新型レーダーは1,000個近い目標を探知し、高い情報処理能力を使って戦車などの優先目標を素早く識別できます。例えば、多数ある目標の中から車両、航空機、固定施設などを区別し、それぞれの位置や移動速度の特定します。そして、その中から脅威度の高い目標を優先順位を付けてパイロットに表示します。この際、優先目標として表示される数は搭載できるミサイルの最大数と同等の16個と言われています。

何やらイージス艦のレーダーのような感じがしますが、実際は目標を過剰・過少に探知したり、海上の波を小型船と誤認するエラーも出ているようです。どんなに高性能なレーダーであっても決して万能ではなく、最終的には「人間」の判断に掛かっていると言えるでしょう。

さて、攻撃ヘリとして気になるポイントはやはり「火力」です。AH-64Dは機首の下に30mm機関砲を1門搭載しており、車両や敵兵に対して猛威を振るいます。最大射程は約3kmと言われており、装填数は1,000〜1,200発です。対戦車の切り札となるミサイルはかの有名なヘルファイアシリーズの最新型であり、最大で16発搭載可能です。

また、ロケット弾は「ハイドラ70」と呼ばれるものを19発納めたポッドを左右に取り付けるのが普通ですが、これは一帯を制圧する際に使われます(まとまった車両部隊や敵兵には効果的)。他にも、航空機から身を守るためのスティンガー空対空ミサイルも搭載できます。搭載するミサイルの種類や数は任務と状況に応じて調整しますが、これだけの破壊力を放てるアパッチは「空飛ぶ戦車」の異名を持つ資格があると言えるでしょう。

防衛省が失敗した「買い物」として有名?

高い戦闘力を持つAH-64Dを導入した陸上自衛隊ですが、当初は62機を配備する計画でした。それもそのはずで、90機も調達したAH-1コブラの後継機として選定したわけですから。しかし、最終的な配備数はわずか13機。あまりに計画とかけ離れた結果になった原因は「コスト」と「AH-64Dの生産終了」でした。

2001年に導入が決まったAH-64Dは富士重工業(SUBARU)がライセンス生産する前提であったため、生産ラインの設備投資などを行いました。しかし、自衛隊の装備品あるあると言える毎年数機という少数調達で単価は跳ね上がり、この時点で1機あたり約80〜90億円という値段になりました。

そして、コスト増で悩んでいるところに本家アメリカがAH-64Dの生産を終了し、さらなる発展型のAH-64Eに移行したことで、防衛省は部品調達とサポートに不安を覚えました。もちろん、AH-64DからE型にアップグレードすればいいだけなのですが、おそらく陸自としても内心この高価なヘリの調達を続けたくなかったのでしょう。これを機に調達の中止を決めます。

ところが、既に60機以上を生産するつもりで富士重工業は設備投資とライセンス生産料の支払いを行っていたため、この分が残りの調達機数のコストに上乗せとなります。その結果、1機あたり200億円超という最新の戦闘機をも超える値段となり、「失敗した買い物」と評されるわけです。

最終的に陸自に配備されたAH-64Dはたった13機になりましたが、ローテーションを考慮すれば常に稼働状態にあるのは多くて5〜6機でしょう。しかも、不幸なことに墜落事故で1機を失い、パイロット2名が犠牲となりました。したがって、現在は12機となったAH-64Dは目達原駐屯地の第2飛行隊に配備されていますが、これが陸自唯一のアパッチ・ヘリ部隊となります。

少数とはいえ、これらAH-64Dは海上自衛隊のヘリ空母で離発着を行うなど離島防衛を意識した訓練にも参加しています。離島奪還作戦では攻撃ヘリによる近接航空支援も重要なのでこうした実証訓練は非常に意義深いものです。

海自艦艇に離発着するAH-64D(出典:陸上自衛隊)

予定よりも大幅に少ない数になった陸自AH-64Dですが、対中国を見据えた大規模な組織改編を進める防衛省は攻撃型無人機を導入することで攻撃ヘリそのものを廃止していく方針を打ち出しました。つまり、AH-64Dを含む全ての陸自攻撃ヘリが消えるわけですが、後継の無人機は具体的に示されておらず、MQ-9リーパーなどの候補が考えられます。

関連記事:陸自の主力攻撃ヘリ:AH-1S コブラ 

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