高い命中率を誇るが
日本は高性能兵器を開発できる能力こそあれど、その納入先が自衛隊に限られていることから、少数調達にともなう単価の高騰にいつも悩まされてきました。
そのため、各部隊に行き渡らずに調達終了になるケースが多く、「96式多目的誘導弾システム」もその一例です。
- 基本性能:96式多目的誘導弾(ミサイル本体)
重 量 | 約60kg |
全 長 | 2.0m |
直 径 | 0.16m |
射 程 | 10km以上 |
誘 導 | 赤外線画像 |
価 格 | 1セットあたり約27億円 (1発:約5,000万円) |
上陸した敵の撃破、そして対戦車戦を重視する陸上自衛隊では、上陸用舟艇と戦車のどちらも狙える79式対舟艇対戦車誘導弾(重MAT)を使ってきました。そして、その後継として開発されたのが、96式多目的誘導弾、通称「MPMS(Multi-Purpose Missile System)」と呼ばれるものです。
しかし、システムの複雑化によって、両者は全く異なる兵器になりました。
重MATは人の手で運べるのに対して、MPMSは6連装の発射機と誘導装置、射撃管制装置などを載せた計6両の大所帯になり、展開完了までに時間がかかってしまいます。
これらは基本的に高機動車で運用されますが、予備弾の再装填機と情報処理装置は73式大型トラックに搭載されました。
展開状態の96式MPMS(出典:陸上自衛隊)
一方、光ファイバーによる有線誘導能力と10km以上の射程を持ち、高精度の遠距離攻撃が可能になりました。
ミサイル自身が赤外線画像装置で目標を捉えながら、その情報を光ファイバーで後送するなか、誘導手はこの画像情報に基づいて追尾指示を与えます。
このとき、対戦車であれば装甲の薄い上部を狙ったり、対舟艇では遅延作動で被害を拡大させるなど、ターゲットに応じて使い分けられます。
高コストによる少数配備
このように敵の視認範囲外から戦車を含むあらゆる車両、そして上陸用舟艇も撃破できるのが96式多目的誘導弾の強みです。
しかし、6両も必要とする大掛かりなシステムなので、準備・撤収時に敵に捕捉されやすく、そのコストも1セットあたり約27億円になってしまいました。
その結果、調達数はわずか37セットに終わり、富士学校のような教育部隊を除けば、北海道と九州の一部に配備されているのみです。
気になる後継にはついては、射程延伸と多目標への同時対処を目指した「多目的誘導弾システム(改)」を開発中で、システム全体も「高機動車×3両」まで簡素化するつもりです。
高機動車へ機能集約を図ることで、システム全体の空輸性を高めつつ、離島防衛に欠かせない機動展開力を改善します。
また、直接の後継ではないものの、「中距離多目的誘導弾」はMPMSの教訓を受けて、その生産コストを抑えながら、撃ちっ放し能力も確保しました。
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