最強の「耳」を持つ音響測定艦のスバ抜けた性能

自衛隊
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潜水艦の「指紋」獲得を目指す

海の戦いで最も厄介な存在と言えるのが潜水艦であり、第一次世界大戦で登場して以来、各国海軍はその対策に頭を悩ませてきました。日本も先の大戦では大量の艦艇と商船が潜水艦の餌食となり、海上交通路が壊滅した苦い経験を持ちます。

それゆえ、戦後の海上自衛隊は「対潜の鬼」と化したわけですが、それはまさに平時における地道な情報収集の積み重ねでした。

海中深くを潜行する潜水艦を見つけるのは当然難しく、水上艦艇や航空機による哨戒が必要です。この対潜哨戒活動で目指すのが「どこの国の、どんな潜水艦なのか」という特定作業。

では、海に潜っている艦をどうやって特定するのか?

実は、潜水艦というのはそれぞれ違う音を発するため、個別の艦を特定することが可能なのです。具体的には、各潜水艦のスクリュー音が微妙に異なっており、「音紋」と呼ばれるこの特徴を使って識別できます。

人間の指紋と似た不思議な話ですが、たとえ同型の潜水艦であっても同じ音紋を有することはありません。

したがって、平時から潜水艦の音紋を入手し、味方で共有することが重要となります。逆に、こちらの潜水艦は音紋を敵に取らせないことが肝要ですが、港にでも引きこもっていない限り、いずれは取られるもの。

1隻で数百kmをカバー可能な船

さて、この音紋を収集する上で大いに役立つのが「音響測定艦」と呼ばれる船。これは高性能な曳航式ソナーを使って海中の音響情報を集め、記録と分析を行う専用艦です。

⚪︎基本性能:「ひびき型」音響測定艦

排水量 2,850t (基準)
全 長 67m
全 幅 30m
乗 員 40名
速 力 11ノット (時速20.4km)
航続距離 最大7,000km
兵 装 なし
価 格 1隻あたり約225億円

海上自衛隊は音響測定艦を現在3隻保有しており、最新の「あき」は2021年3月に就役しました。1番艦の「ひびき」は1989年に建造開始されましたが、これは静粛性が増すソ連潜水艦に対抗する上で音響測定艦の必要性が浮上したため。

音響測定艦は戦闘艦ではないので武装はしていませんが、その代わり目玉となるのが曳航式ソナー。米海軍も使う「AN/UQQ-2」と呼ばれる高性能なソナーを曳航することで広大な範囲における海中情報を探知、収集できます。

このソナーは最大水深460mまで展開され、曳航するためのケーブルは1.8kmの長さを誇ります。そして、探知範囲は最大数百kmとも言われており、1隻で周辺海域に潜む各国潜水艦を一気に発見できるそうです。

最新の音響測定艦「あき」(出典:海上自衛隊)

一口に海中の音響情報といっても、そのままでは鯨や魚群などの雑音が多く混じっている状態。そのため、収集した情報を処理、解析する装備も持ち合わせています。

そして、最も欲しい潜水艦の音紋を入手し、海自がこれまで蓄積してきたデータベースに反映・更新するわけです。このデータベースこそが対潜活動の根幹を成す強力なツール(武器)で、これを支えているのが平時から情報収集を担当する音響情報艦。

中国潜水艦に対抗して4隻体制へ

そんな音響測定艦ですが、海自では2021年に「あき」が就役したことで長年の2隻体制から3隻体制に強化されました。ローテーションを考慮しても常時1隻は投入可能となり、対潜哨戒能力は大幅にアップしたと言えるでしょう。

また、4番艦の建造も予定されているため、いずれは「ひびき型」4隻体制となります。米海軍の音響測定艦(米軍では「海洋観測艦」と呼称)が5隻である点を考えれば、海自の4隻体制はまさに「対潜の鬼」にふさわしい陣容。

この音響測定艦の増勢を最も嫌っているのが中国でしょう。むろん、海自が音響測定艦を増強するのも中国潜水艦が理由なので、これは当然ですが。

そんな中国も音響測定艦に該当する艦船を有しているものの、運用経験や純粋な対潜能力では、いまだに日米が優位性を保っています。

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