舟&車?94式水際地雷敷設装置

車両・火砲

世界的に稀な地雷敷設用の水陸両用車

海に囲まれた日本にとって敵勢力の上陸を阻止することは古来から変わらぬ至上命題で、もし航空・海上優勢を確保できずに着上陸を許したならば、これを可能な限り沿岸部で食い止める必要があります。この水際作戦を展開するうえで欠かせないのが上陸が想定される海岸線への水中地雷の設置であって、このとき活躍するのが「94式水際地雷敷設装置」と呼ばれる世界的にも珍しい水陸両用車です。

⚪︎基本性能:94式水際地雷敷設装置

重 量16t(空荷時)
全 長11.8m
全 幅陸上:2.8m
水上:4.0m
全 高3.5m
乗 員 3名
速 度陸上:時速50km
水上:6ノット(時速11km)
積載量22.2t
価 格1両あたり約5億円

沿岸部への地雷原敷設という特殊な役割を持つ94式水際地雷敷設装置は海底設置型と水中設置型の2種類の地雷を敷設しますが、これら地雷は敵の上陸用舟艇や車両が発する振動、磁気を探知して起爆するのでその効果と厄介度は機雷とほぼ変わりません。この水中地雷で構築された地雷原は上陸を試みる敵に心理的恐怖を与えるとともに、上陸そのもののリスクを高めることで作戦遂行能力を制約できます。一方、味方にとっては敵を足止めする手段として貴重な時間を稼いだり、当該エリアに張り付けていた戦力を他地域に回す余裕を生み出します。

この水中地雷は海上から投下する仕組みなので現場海岸に到着した本車は格納式フロートを展開して浮力を発生させた後、2基のスクリューで水上航行しながら敷設エリアまで向かいます。そして、敷設装置が荷台に積んだ地雷を1時間あたり約70個のペースで自動投下するわけですが、この際にGPS機能を用いることで地雷が30m間隔で設置された水中地雷原を正確な地点に構築します。ほかにも、ヘリコプター用敷設装置を使った空中投下による敷設もできるそうです。

水上航行する94式水際地雷敷設装置(出典:陸上自衛隊)

ちなみに、法律上は船舶としても見なされていた94式水際地雷敷設装置は操縦の際に船舶免許も必要でしたが、2017年の自衛隊法改正によって本車と自衛隊初の水陸両用戦闘車「AAV-7」は適用対象外となったため、今は船舶免許が不要となりました。

離島防衛でも使える装備なのか?

ニッチな用途に使われる94式水際地雷敷設装置は施設科部隊の水際障害中隊で運用されているものの、全国でもわずか5カ所の駐屯地でしか見られないレアな存在となっています。また、開発時の想定だった旧ソ連軍による大規模な着上陸侵攻もソ連崩壊と中国の急速台頭という安全保障環境の激変によって全く異なる離島防衛にシフトしており、同シナリオを見据えた各種装備が求められるようになりました。

では、94式水際地雷敷設装置は離島防衛でも通用するのか?

離島防衛も上陸作戦を巡る攻防戦という点では変わらず、むしろかつての想定であった北海道よりも上陸地点が絞りやすく、海岸まで展開するための移動距離も比較的面積の少ない島内ならば短く済みます(当該離島まで事前に輸送・展開する必要はあるが)。また、離島防衛の要を担う水陸機動団が参加した演習では94式水際地雷敷設装置も登場して地雷敷設の訓練を行なっているので、少なくとも陸自は離島防衛でも本車を引き続き活用するつもりです。ただし、後継にはついては何も計画されておらず、最近の流れ的にいずれ無人化されると思われるものの、94式水際地雷敷設装置はしばらくは現役続投となります。

⚪︎関連記事:自衛隊初の水陸両用戦闘車AAV-7

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