防御力よりも機動性を優先した戦場タクシー
陸上自衛隊で運用されている多くの装甲車両のなかで74式戦車と同レベルの「老兵」といえるのが73式装甲車で、累計338両が生産されたこの装甲車は登場からすでに半世紀が経つにもかからわず、未だに北海道と九州で現役なのです。
⚪︎基本性能:73式装甲車
重 量 | 13.3t |
全 長 | 5.8m |
全 幅 | 2.9m |
全 高 | 2.21m |
乗 員 | 操縦4名+同乗8名 |
速 度 | 時速60km |
行動距離 | 約300km |
兵 装 | 12.7mm機関銃×1 7.62mm機関銃×1 3連装煙幕発射弾×1 |
価 格 | 1両あたり約1億円 |
73式装甲車は同時期に開発された74式戦車とチームを組む前提であることから、同戦車に随伴できる速度と時速6kmで河川を渡河する浮上航行能力を持っています。ただ、浮上航行には30分以上の準備時間を要するうえ、沈んでしまうケースも多発しているので実用性はありません。実用性という点では、ほかにも車内から小銃を射撃するためのガンポートが左右に設置されていますが、実際の戦闘で役立つかは微妙といえます。

操縦や機関銃を担当する4名以外に8名を乗せられるものの、半世紀も前に開発されたこの装甲車には当然エアコンが付いておらず、乗り心地も決してよくありません。また、アルミ合金を用いた車体は小銃弾程度しか防げないので防御力はあまり期待できませんが、一方でNBC兵器(放射性物質・生物・化学)に対する防護力を持つなど侮れない側面があるのも事実です。
そもそも、73式装甲車は戦闘への直接参加は想定しておらず、あくまでは戦場まで兵員を運ぶ「タクシー」であることから自衛火力と最低限の防御力さえあれば良いという思想に基づき、重量が増す装甲よりも軽快さを優先した形です。
意外にまだ価値のある不整地走破能力
では、なぜ旧式が著しい73式装甲車は未だに現役なのか?
ひとつは後継の96式装輪装甲車の価格が高いので73式装甲車を全て置き換えられなかった懐事情があります。これは装備更新が優先的に行われる陸自唯一の機甲師団・第7師団の一部でも73式装甲車が使われている現状からうかがえますが、ほかにも悪路に強く、不整地で時速60kmを出せる点に一定の価値があるのです。
装甲人員輸送車としては96式装輪装甲車の方が当然優れていますが、装輪式はキャタピラ式より不整地における突破能力で劣ることから不整地で戦車にしっかり随伴できる73式装甲車は「保険」として持っておくのもアリなのです。また、装輪式の82式指揮通信車に代わって不整地に強い指揮車として使われるケースもあり、この場合は簡易屋根を追設した移動式の通信指揮所として機能します。
似た事例として同じ旧式の装甲兵員輸送車でアメリカのM113がありますが、こちらはロシアの侵攻を受けるウクライナに200両以上が供与されて、貴重な装甲戦力として反攻作戦にも投入されるなど、現代でもある程度は通用することが証明されました。したがって、新しい装甲車で全て更新する予算でもつかない限り、73式装甲車は「無いよりはマシな装備」としてギリギリまで運用される見通しです。
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