要は「生物兵器に対応しているかどうか」
この150年で人類の科学技術は飛躍的に進化しましたが、その一方で戦争に使われる兵器も進化を遂げており、特に「NBC兵器(核・生物・化学)」の存在は各国にとって大きな脅威であり続けています。
そのため、これら兵器の使用も想定した対策及び装備の開発が各国で進められてきましたが、特に重視されているのが「NBC偵察車両」と呼ばれる特殊車両です。これはNBC兵器によって汚染されたされた場所に進出し、汚染状況を観測する車両のことを指し、日本ではNBC兵器に対処する専門部隊である陸上自衛隊の「中央特殊武器防護隊」で運用されている化学防護車とNBC偵察車が該当します。
⚪︎基本性能:化学防護車、NBC偵察車
化学防護車 | NBC偵察車 | |
全 長 | 6.10m | 8m |
全 幅 | 2.48m | 2.5m |
全 高 | 2.38m | 3.2m |
重 量 | 14.1t | 20t |
乗 員 | 4名 | 4名 |
速 度 | 時速95km | 時速95km |
行動距離 | 500km | 500km |
装 備 | 12.7mm機関銃×1 (遠隔操作式) | 12.7mm機関銃×1 (遠隔操作式) |
能 力 | 核兵器(放射能) 化学兵器 | 核兵器(放射能) 生物兵器 化学兵器 |
価 格 | 1両あたり約2億円 | 1両あたり約6.3億円 |
まず、化学防護車は82式指揮通信車をベースに開発された自衛隊初の本格的なNBC車両であり、1987年に登場しました。車内の密閉性を確保するとともに、空気清浄機を設置することで乗員を放射能及び化学汚染から守り、極力外気に触れない設計になっています。また、車内には放射能と化学物質を測定する機器が搭載されており、汚染された土壌のサンプルを採取することも可能です。

化学防護車は現在まで47両が調達され、1995年の地下鉄サリン事件や2011年の福島第一原発事故に出動してきた実績を持ちますが、生物兵器に用いられる細菌を検知する能力は有していないため、後継として「NBC偵察車」が開発されました。
簡潔に説明すると、NBC偵察車は化学防護車に生物兵器への対処能力を加えた車両であり、2010年から配備が進められてきました。元来、生物兵器に対してはトラックを改造した生物偵察車というものがありましたが、別々で運用するよりも「NBC」のうち既に「N」と「C」に対応している化学防護車に「B」への能力を付与した方がコストパフォーマンスが良いという結論になったのです。
NBC偵察車は化学防護車よりも一回りほど大きいサイズになっており、放射能・細菌・化学物質の全てを検知・測定する機器を備えています。当然、空気清浄機によって乗員を外部の汚染から守る能力を有しており、放射能防護能力は化学防護車よりも強化されているそうです。

化学防護車との主な相違点は、既述のように細菌への対応能力の有無ですが、他にもNBC偵察車は化学防護車にあった土壌採取装置を廃止したことが挙げられます。これは、発想自体は良かったものの、実際には装置の故障が頻発していたらしく、代わりに乗員が外気に触れずに備え付けの手袋でサンプルを採取する「グローブ・ボックス」が採用されました。
このように能力を一本化したNBC偵察車ですが、価格は化学防護車よりも3倍以上というかなり高価になっており、配備数は現時点では19両ほどにとどまっています。一応、予定では50両ほどが調達される見込みですが、コストと装備調達の優先度を考えると実現するかは怪しいでしょう。
ただ、原発事故と都市部での化学テロを経験した日本は、これらの教訓を生かして十分な対応能力とそのための装備を確保しておかねばなりません。NBC偵察車両というのは、戦車などに比べると「地味」な存在ですが、戦車とは異なり、残念なことに日本では実際に事故やテロを通じて出動せざるを得なかったという稀有な実績があるのです。
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