地上戦に欠かせない回収車両
陸戦の「花形」と言えば、やはり戦車を思い浮かべる人が多いですが、そんな戦車が戦闘や故障などで行動不能に陥ったらどうするのか?
あまりに損傷が激しかったり、敵の手に渡る恐れがある場合は爆破された上で放棄されますが、修理の見込みがあれば回収を試みます。
戦闘では消耗が避けられないものの、1両数億円もする戦車を回収して修理できるならば、ぜひそうしたいと思うのが自然でしょう。特に、生産力や軍事費で劣る国の場合は、修理できるはずの戦車を回収し損ねるのは非常に「痛い」できごと。
そこで出番となるのが「戦車回収車(Tank Recovery, TR)」と呼ばれる専門車両です。

戦車回収車の歴史は古く、戦車そのものがデビューした第一次世界大戦の時点で必要性が明らかにとなり、続く第二次世界大戦で本格登場しました。
戦車戦が多かった独ソ戦では損傷・故障した戦車を回収して再戦力化するのが重要視され、生産力で劣るドイツ軍ではなおさらでした。実際、鹵獲を防ぐために修理可能な車両を爆破処理したケースが多く、貴重な装甲戦力を低失う結果となりました。
最近では、ロシア=ウクライナ戦争でウクライナが鹵獲したロシア戦車を持ち帰ったり、損傷したレオパルト2戦車などを回収するのに活躍しました。このように戦車回収車は現代地上戦でも欠かせない装備のひとつなのです。
自衛隊は戦車回収車を複数運用中
この戦車を回収するという課題は戦後も変わらず、陸上自衛隊でも70式戦車回収車を皮切りに計4種類の国産戦車回収車が開発されてきました。
ただし、70式戦車回収車は予算の制約でわずか4両しか配備されず、本格的な配備という意味では未だ現役の78式からになります。
⚪︎基本性能:78式・90式戦車回収車、11式装軌車回収車
78式戦車回収車 | 90式戦車回収車 | 11式装軌車回収車 | |
全 長 | 7.95m | 9.2m | 9.1m |
全 幅 | 3.2m | 3.4m | 3.4m |
全 高 | 2.4m | 2.7m | 2.6m |
重 量 | 39t | 50t | 44.4t |
乗 員 | 4名 | 4名 | 4名 |
速 度 | 時速53km | 時速70km | 時速70km |
装 備 | 12.7mm機関銃×1 クレーン ウィンチ |
12.7mm機関銃×1 クレーン ウィンチ |
12.7mm機関銃×1 クレーン ウィンチ |
牽引能力 | 38t | 50t | 45t |
吊上能力 | 20t | 25t | 25t |
生産数 | 50両 | 30両 | 5両 |
価 格 | 約3億円 | 約5億円 | 約5億円? |
陸自には3種類の現役戦車に対応した戦車回収車が開発された、いわば「セット」のようなもの。
戦車が現場でスタックしたり、戦闘で擱座することを想定して、随伴できるだけの速度を持ち合わせ、通常は戦車部隊と同じ駐屯地に配備されています。
鈍重な戦車を回収するにはそれなりの馬力が求められるため、戦車回収車の車体は戦車と同じものを流用するケースが多く、エンジンも共通化して十分な牽引能力を持たせます。
そして、この車体の流用は開発コストを抑え、メンテナンスの効率化にも繋がるというメリットがあります。
回収車は標準装備として牽引用のウィンチや吊り上げるためのクレーンを有しますが、あくまで戦闘に参加しない支援車両なので、武器は最低限の12.7mm機関銃と発煙弾発射機しかありません。
また、戦車と同様に姿勢制御装置も備えて、重心を安定させながらの作業を実現しました。
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最も古い「78式戦車回収車」は、まもなく退役を迎える74式戦車を想定して開発されたもので、車体は74式戦車を流用してメンテナンスの効率化を図りました。
当然、74式戦車は牽引できるものの、より大型の90式戦車に対しては役不足感が否めません。
したがって、90式戦車の登場と同時に「90式戦車回収車」も開発され、牽引能力と吊上能力が大幅に向上しました。役割自体は従来と変わりませんが、こちらは交換用のエンジンと砲身を置くためのスペースがあり、こうした交換作業に駆り出されたりもします。
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