タイヤ式車両向けのレスキュー車両
現代陸軍において「スピード」は極めて重要視されており、迅速な輸送力を確保するためには装甲車を含む多くの車両が欠かせません。しかし、それら車両が何らかの原因で動けなくなったら一大事で、肝心の輸送力にダメージを与えます。
通常、軍用車両は民間車より頑丈であるとはいえ、故障や不具合と決して無縁ではなく、未舗装の土地を走行することが多いため、スタックする可能性は十分あります。
不整地走破能力の高い戦車でさえ、泥濘の土地ではしばしば行動不能に陥ることを考えると、非キャタピラ式車両ならば尚更でしょう。
もし戦車が動けなくなったら、「戦車回収車」というレスキュー車両が助けに来ますが、非キャタピラ式の装甲車の時はどうなるのか?
この場合、出番となるのが「重装輪回収車」と呼ばれる大型レッカー。
⚪︎基本性能:重装輪回収車
全 長 | 11m |
全 幅 | 2.5m |
全 高 | 3.4m |
重 量 | 24.8t |
乗 員 | 3名 |
速 度 | 時速100km |
装 備 | クレーン、ウィンチ |
牽引能力 | 15t |
吊上能力 | 12t |
価 格 | 1両あたり約1.45億円 |
重装輪回収車は装輪(タイヤ式)車両の整備及び回収を行う専門車両として三菱重工業で開発され、2002年から配備が始まりました。
陸自は日本全土の舗装率が上昇するにつれて、装輪車両の調達数を増やしてきた経緯がありますが、それにともなってこれら装輪車両を回収する装備も必要になりました。
重装輪回収車の見た目は大型レッカーそのものであり、8つのタイヤ全てが駆動する「8WD」です。
車体後部にメイン装備となるウィンチとクレーンを搭載しており、これらを使って行動不能に陥った車両を回収したり、交換用エンジンのような整備部品を運んだりします。

牽引能力や吊上能力は戦車回収車と比べると劣りますが、回収対象が戦車より軽量なので身の丈に合った性能といえるでしょう。
つまり、「戦車には戦車回収車を、装輪装甲車には重装輪回収車を」のように上手く棲み分けしているのです。
装輪式の本車はキャタピラ式の戦車回収車より圧倒的に速く、支援対象の各種装甲車に随伴する能力を持ちます。そして、平時においては戦車を含むキャタピラ式車両が走れる公道は法律によって制限されますが、装輪車両の場合はこの法的制限がほとんどありません。
世界屈指の舗装率を誇る日本では、路上を走行して戦力展開する方が合理的であり、都市部での戦闘も機動力に優れた装輪車両の方が有利です。
したがって、陸自では装輪車両の配備数が増加傾向にあって、支援車両の必要性も比例するように上がっています。
ファミリー化と改良型の登場
元々は回収車として開発された重装輪回収車ですが、実は後部に搭載する装備を変えることで別の車両に変身できます。
例えば、対中国海軍の切り札として期待される12式地対艦ミサイル発射機は同じ車体を流用していて、本車をベースにした装備が意外に多くあります。
ほかにも、対空レーダーや03式中距離地対空ミサイルを載せたタイプがあるなど、いわゆる「ファミリー化」を実現しました。このファミリー化は調達コストを抑えることにも寄与しているため、重装輪回収車は戦車回収車よりも単価がかなり安くなりました。

さて、重装輪回収車は96式装輪装甲車などの車両を見据えて登場しましたが、現在は16式機動戦闘車の整備と回収を想定した改良型の「重装輪回収車 改」が開発中。
重量26トンの機動戦闘車を回収するため、牽引及び吊上能力は強化される見込みですが、その他の性能は大きく変わりません。
陸自では戦車定数の削減と16式機動戦闘車のような装輪車両へのシフトが明確であり、これら車両を回収支援する重装輪回収車の重要性が今後増すばかりと考えられます。
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