対中国の切り札?陸自・地対艦ミサイル連隊の役割

ミサイル
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実は「地対艦ミサイル大国」の日本

陸上自衛隊の主任務は上陸してきた敵を撃破することですが、大前提として「上陸」そのものを阻止することが何よりも重要なので、敵の水上艦船を攻撃する地対艦ミサイル(SSM)連隊という部隊も存在します。この部隊は優秀な性能を持つ88式SSMを30年以上運用しており、各種演習を通じて高い命中精度を発揮しています。そして、南西諸島に配備されている最新の12式SSMは射程を900〜1,500kmに大幅延伸する予定のため、東シナ海および西太平洋の中国海軍を一気に手中に収めることになるのです。

こうした高性能なSSMを持ち、専属の連隊まで編成した国はかなり珍しく、例えばアメリカには同様の部隊は存在しません。ただ、対中国戦では西太平洋の島嶼防衛が最重要であるうえ、SSMは数で勝る中国海軍に対する有効打になり得ることからアメリカも最近は地対艦ミサイルの重要性を再認識し始めました。こうして中国の台頭に危機感を覚えたアメリカはNMESIS地対艦ミサイルなどの導入を開始し、各島嶼に配置する構想を打ち出しましたが、これには長年の運用実績を誇る陸自の地対艦ミサイル連隊の関与も期待されています。

配備は北から南へ、数は5個から7個へ

現在、地対艦ミサイル連隊は5個連隊ありますが、そのうち3個は北海道に駐屯しており、さらに1個は東北に配備されているので現状では明らかに「北方偏重」と言えます。これは冷戦期にソ連の北海道侵攻を見据えた北方への戦力集中が今も名残として残っているからです。

もちろん、ロシアが存在する以上は北の脅威が消滅したわけではありませんが、ウクライナで消耗した今のロシアに北海道への大規模な侵攻を行う余力はありません。当面の仮想敵国が中国であることを考えれば、日本北部に4個連隊が集中しているのは現状に即していないため、東北の連隊を徐々に廃止して南西方面の奄美大島や宮古島で再編成しました。

このように陸自は確実な「南西シフト」に注力している最中で、地対艦ミサイル部隊も沖縄に新たな連隊を発足させるなどして最終的には7個連隊体制に増強する予定です。これによって奄美大島と宮古島に加えて、沖縄本島と石垣島にも最新の12式SSMが配備されるわけですが、将来的には長射程の能力向上型12式SSMが配備されるはずなので東シナ海全域をカバーできる体制が整います。

最新の12式地対艦ミサイル(出典:陸上自衛隊)

南西諸島への新型SSM配備は中国が進めてきたA2AD戦略(接近阻止・領域拒否)を逆手に取った策でもあり、既に数で勝る中国海軍に対して費用対効果の優れた地対艦ミサイルを駆使して接近を阻止し、行動の自由を制限する狙いが込められています。

元々、A2ADは劣勢な中国軍が米軍に対抗するための戦略として打ち出したことを考えると、空母を含む高価な軍艦を多数持つことになった現在の中国海軍が逆用される側になるのはなんとも皮肉な話ですが、日本としては世界的に稀な地対艦ミサイル連隊を切り札として活用するのは当たり前の戦略でしょう。

⚪︎関連記事:12式地対艦ミサイルは中国海軍を縛れるか?

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