機動力重視の「装輪戦車」
陸上自衛隊といえば「戦車」のイメージが強いですが、安全保障情勢の激変と組織改編の影響でその定数はかつての1,200両から300両まで削減されました。
その代わり火力と機動力を兼ね備えた「16式機動戦闘車」というタイヤ式の装輪戦闘車を戦車の重要性が低い地域(本州と四国)に配備中です。
装輪式はキャタピラ式よりも高速・低燃費なうえ、騒音や振動が少ないという長所があります。一方、キャタピラ式の戦車などと比べて不整地、つまり未舗装道路を走破する能力では劣ります。
こうした欠点はあるものの、日本のように高速道路や国道をはじめとした道路整備が進んでいる場合はその真価を発揮できるのです。
- 基本性能:16式機動戦闘車
重 量 | 26t |
全 長 | 8.45m |
全 幅 | 2.98m |
全 高 | 2.87m |
乗 員 | 4名 |
速 度 | 時速100km |
行動距離 | 約700km |
兵 装 | 105mmライフル砲×1 12.7mm機関銃×1 7.62mm機関銃×1 |
価 格 | 1両あたり約9億円 |
「MCV(Maneuver Combat Vehicle)」の愛称で知られる16式機動戦闘車は、最新の10式戦車と比べて車体重量は18トンも軽く、全国の橋梁通過はもちろん、空輸性にも適していることから有事ではC-2輸送機による機動展開を目指せます。
しかも、8つのスタッドレス・タイヤは舗装道路であれば、最高時速100kmを発揮できるため、トランスポーターを必要とする戦車と違って自力での長距離移動が可能です。不整地における揺れを抑える技術も開発中なので、将来的には路外機動力が今よりも向上する見込みです。
攻撃力の要となる主砲は、退役した74式戦車の弾薬を流用できる105mmライフル砲を採用しましたが、対戦車用の砲弾を使えば現代戦車も撃破可能といわれています。
もちろん、これは120mm砲を搭載する各国戦車には及ばないものの、火力支援や装甲車両への攻撃には十分すぎる威力を誇り、似た役割を持つフランスのAMX-RC10も同じ105mmライフル砲を採用しています。
また、装輪式がキャタピラ式よりも劣るとされている射撃安定性については、10式戦車の開発で生まれた反動抑制装置と射撃統制機能を用いることで、激しく旋回しながら主砲を撃つスラローム射撃も実現するなど、その弱点は克服されました。
このように最新戦車にも引けを取らない射撃精度を持つ反面、自動装填装置を搭載してない影響で射撃速度では10式戦車にかないません。
とはいえ、キャタピラが破損したら走行不能になる戦車とは異なり、16式機動戦闘車はタイヤが1、2個ぐらい損傷してもそのまま走り続けられるなど、10式戦車に勝る点もあります。
防御面では小火器、機関銃弾に対する耐性はあるものの、詳細なデータは全く公表されていません。しかし、10式戦車と同様のモジュール式の増加装甲を採用したこと、性能試験でカール・グスタフ(84mm無反動砲)が使われていた点を考えると、対戦車火器に対してもそれなりの防護力が確保されていると思われます。
運用実態は「軽戦車」?
74式戦車と同等の火力を持ちながら、機動力で勝る16式機動戦闘車は、現在までに約220両が調達されて本州・四国の各部隊で廃止された戦車の代わりを務めてます。
最終的な調達数は260両ほどになる見通しですが、16式機動戦闘車の登場で戦車自体が不要になったわけでは決してありません。
むしろ、戦車を含む敵の装甲部隊を撃破するには、こちらも戦車で繰り出す必要があり、定数こそ減らされたものの、戦車部隊は今後も北海道と九州で存続予定です。特に陸自唯一の機甲師団である「第7師団」には戦車が集中配備されており、必要に応じて南西方面にも機動打撃力として投入されます。
前述のように対戦車戦もある程度は可能と思われる一方、まともな撃ち合いになれば役不足なのは明白です。
結局のところ、16式機動戦闘車は従来の87式偵察警戒車では荷が重い威力偵察や火力支援など、戦車を待つ余裕がない、もしくは投入するほどでもない場面で重宝される「軽戦車」のような位置づけです。それでも、優れた機動性と空輸性を持ち、状況に応じて火力支援から一定の対戦車戦まで行える16式機動戦闘車は魅力的な存在といえます。
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