陸自による防空の要となるミサイル
「防空」は基本的に航空自衛隊の任務になりますが、陸上自衛隊も地上部隊を守るための対空装備を多数運用しており、なかでも長射程かつ優秀な性能を誇るのが「03式中距離地対空誘導弾(中SAM)」と呼ばれる国産の中距離防空ミサイルです。旧式化したホーク・ミサイルの後継として開発・導入されたこのミサイルはその改良型も含めて米軍ですら高く評価するほどの実力を持ちます。
⚪︎基本性能:03式中距離地対空誘導弾(改)
重 量 | 454kg |
全 長 | 4.9m |
直 径 | 0.28m |
射 程 | 60km以上 |
価 格 | 1個システムあたり約174億円 |
03式中SAMは名前のとおり2003年に採用された中距離地対空ミサイルで、全国各地の高射特科群を中心に配備されています。陸自が保有する地対空ミサイルの中では最も射程距離が長く、味方部隊や重要エリアの防空に加えて、空自が撃ち漏らした敵戦闘機も要撃するなどパトリオット・ミサイル(PAC-3)と一緒に日本の広域防空を支える兵器です。ただし、PAC-3は有事の際は弾道ミサイル防衛にも注力せねばならず、03式中SAMが事実上の「要」となる可能性があります。
ミサイルは6発装填した発射装置を重装輪回収車と同じ車体に載せますが、垂直発射方式を採用してホーク・ミサイルよりも高い機動展開性を確保するとともに、同じく6発搭載した運搬装填装置を随伴させることで効率的な次弾装填を可能としました。また、これら以外にも戦闘指揮や射撃管制、対空レーダー、電源などを搭載した各種車両とともに一つのシステムを構成して防空任務にあたります。このようにシステム全体の自走化を通じて迅速な展開を実現する一方、運用面でも人員を従来の50人から20人程度まで省人化することに成功しました。

さて、肝心の性能についてですが、この中SAMシステムが使用するレーダーは100個以上の目標を探知できるうえ、そのうち脅威度の高い12個を同時に追尾するというミニ・イージス艦並みの能力を誇るそうです。そして、この同時対処能力以外にも、電波妨害に対抗する能力や早期警戒管制機とのデータリンク機能も付与されており、敵の遠距離攻撃にも十分対処することができます。
発射後は射撃管制装置による誘導とミサイル自身が目標を捉える方式を使って進みますが、射程距離に関しては最低でも60km以上はあるとされています。実際はもっとあるのではないかと推測するものの、当然ながら詳細は機密にあたるため公表されておらず、むしろ曖昧にしておくことで敵を疑心暗鬼にさせて、侵入を躊躇させる効果が期待できます。
米軍すら驚いた「10発10中の命中率」?
優れた同時対処能力を持つ03式中SAMは前述のように高射特科群に配備中ですが、気になる価格については一つのシステムあたり約167億円となっています。これは一見かなり高価に見えますが、同じ役割をPAC-2で代替した場合は倍近い費用がかかるので意外にも安く済んでいるのです。
その後、2010年から低空目標への対処能力を高めた「03式中距離地対空誘導弾(改)」が開発され、南西諸島の守りを強化するために同地域の陸自に優先配備されました。この改良型はデータリンク機能も向上させることでより柔軟な対応と広いエリアのカバーが可能となり、世界トップクラスの防空兵器と言っても過言ではありません。それを象徴する逸話として、2015年に行われた発射試験で10個の目標に対して放たれた10発の03式中SAM改が全て命中して米軍を驚愕させたというものがあります。
ある意味、米軍ですら舌を巻く性能を誇る03式中SAM改は有事では敵の航空優勢確保を断念させるための切り札となり得ます。ロシア=ウクライナ戦争では予想に反してロシア空軍が航空優勢を確保できず、低調な活動を余儀なくされていますが、これはウクライナ側の中・長距離地対空ミサイルが原因と言われています。双方とも防空ミサイルが機能しているのでどちらも全域的な航空優勢を確立できず、改めて地対空ミサイルの価値が認識されました。したがって、南西諸島での有事においても、初戦でいかに03式中SAMを含む防空兵器を生き残らせて、その後の敵航空機の活動を抑え込むかが戦局を大きく左右します。
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