ミサイル防衛最後の砦:PAC-3

ミサイル

各地に展開可能な地対空ミサイル

北朝鮮の弾道ミサイル問題が深刻化して久しいですが、日本もこの30年間で迎え撃つ体制を構築してきました。現在の弾道ミサイル防衛は、①イージス艦による大気圏外での迎撃 ②PAC-3による迎撃の二段構えであり、PAC-3は最終加速で突入してくる弾道弾を迎撃する文字通り「最後の砦」です。

⚪︎基本性能:PAC-3(ぺトリオット・ミサイル)

全 長5.0m
直 径0.25m
重 量320kg
射 程20-30km
価 格1発あたり約8億円

PACとは「Patriot Advanced Capability(ペトリオット先進能力)」の略であり、元々は航空機を撃墜する地対空ミサイルとして開発されました。PAC-3は弾道ミサイルにも対処できるように改良されたバージョンであり、2007年から航空自衛隊が運用を開始しました。

PAC-3を含めたペトリオット・シリーズは移動式のミサイル発射機であり、他にもレーダー、射撃管制装置、情報調整装置、無線中継装置、アンテナ、電源をそれぞれ搭載した10両以上車両で一つのセット(中隊)を構成します。ただし、一旦設置してしまえば、発射時に人手が必要なのは射撃管制装置だけなので、少ない人員でも運用できるようになっています。

PAC-3中隊の1/35模型(筆者撮影)

ちなみに、呼び方については「パトリオット」と「ペトリオット」の二つが使われており、マスコミは前者で呼ぶことが多いです。しかし、後者の方が実際の英語発音に近く、日本政府と自衛隊では公式に「ペトリオット」の呼称を使っています。特に、運用している航空自衛隊では「ペトリ」の愛称で親しまれており、担当する高射隊の自衛官は「弾職人」と書かれたTシャツを愛用しています。

弾道ミサイルに対する最終手段として

PAC-3は弾道ミサイル防衛における最後の砦ですが、その射程はわずか20-30kmほどです。迎撃対象は秒速数kmで突入していくる弾道ミサイルのため、対処できる時間はほとんどありません。通常のミサイルとは異なり、目標にそのまま体当たりすることで弾道ミサイルを粉砕しますが、難易度は極めて高いです。よく用いられる比喩として「ピストルの弾をピストルで撃ち落とすようなもの」がありますが、核心を突いた表現と言えます。撃ち漏らしたら二度目のチャンスはないため、本当の意味での最終手段なのです。

ここで気になるのが命中率・迎撃成功率ですが、米軍の実験では83%という数字が出ています。ただし、これは新しいソフトウェアに更新する前の数字であり、更新後は100%という成功率を叩き出しています。一方、肝心の航空自衛隊はPAC-3による弾道ミサイル迎撃実験を数回ほど実施しており、今のところは100%の命中率を誇っています。

発射されるPAC-3ミサイル(出典:航空自衛隊)

既述のように PAC-3は目標に直撃して破壊するタイプですが、自らレーダー波を出しながら目標を探し、飛行中も180個もある細かいモーターによる噴射を使って方向の微調整を行えます。そして、一つの目標に対して通常2発のPAC-3を発射することで撃ち漏らす可能性を減らし、命中率を引き上げます。

もちろん、有事では実験とは異なる要因(弾道ミサイルの発射角度や弾数など)が加わるため、この命中率をそのまま信じるわけにはいかないでしょう。ただ、迎撃そのものの難易度が極めて高いことを考えれば、この命中精度は今のところ望み得る最高峰のものといえます。

PAC-3の配備状況と後継

最後の砦たるPAC-3を運用しているのは航空自衛隊の高射隊ですが、全国17個の部隊に合計34機の発射機が配備されています。しかし、カバーできる範囲はそれぞれ直径50kmほどのため、日本全土を守ることはできません(イージス艦が展開していれば話は別)。1機の発射機で最大16発のPAC-3を装填できますが、1発8億円もするミサイルのため、調達済みなのは120〜130発と見られています。つまり、全ての発射機にフル装填できるだけのPAC-3ミサイルを保有していないのが現状です。

平時は各地の高射隊に配備されているPAC-3ですが、冒頭でも述べたように移動式のため、必要に応じて各地に展開できます。実際、北朝鮮が弾道ミサイルの発射を繰り返した2016年〜2017年には東京の市ヶ谷、島根県や愛媛県に緊急展開しました。自衛隊は普段からPAC-3を素早く展開するための機動訓練を実施しており、即応力を可能な限り高めています。

イージス艦とPAC-3の配備状態(出典:防衛省)

さて、全国への配備とPAC-3弾の調達が進められていますが、やはり射程と到達高度の短さが気がかりです。この問題点を解決するため、アメリカは発展型のPAC-3 MSEを開発、2016年から部隊で運用しています。PAC-3 MSEは「Missile Segment Enhancement(ミサイル部分向上型)」を意味しており、ミサイルそのものが大型化しています。そのため、一つの発射筒に装填できる数が1発減り、1つの発射機の最大装填数は16→12となります。

その代わり、従来のPAC-3と比べて射程距離と到達高度がそれぞれ倍増しており、カバーできる範囲も必然的に広がります。さらに、より小型かつ高速の目標への対応能力も向上しており、弾道ミサイルの他にも巡航ミサイルや航空機も撃墜できます。

現在、航空自衛隊はこの新型PAC-3 MSEの調達を進めており、既に沖縄の部隊には配備済みです。やはり、弾道ミサイルに加えて、巡航ミサイルも撃墜できる最新の地対空装備ということで、最も有事のリスクが高い南西方面に優先配備された形になります。

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