公式な呼び方は「ペトリオット」
北朝鮮による弾道ミサイル発射が相次ぐなか、日本は約30年間にわたってミサイル防衛に注力してきた結果、(1)洋上のイージス艦による大気圏外での迎撃 (2)地上のPAC-3による迎撃という二段構えの迎撃体制を構築し、後者のPAC-3は最終加速で突入してくる弾道弾を迎え撃つ文字通り「最後の砦」です。
⚪︎基本性能:PAC-3 MSE
重 量 | 320kg |
全 長 | 5.0m |
直 径 | 0.25m |
射 程 | 約30km |
高 度 | 約20km |
価 格 | 1発あたり約5億円 |
まず、PACとは「Patriot Advanced Capability(ペトリオット先進能力)」の略ですが、実はこの「P」の部分にあたるぺトリオットも目標の追跡および迎撃を意味する「Phased Array Tracking and Intercept Of Target」の略なのです。このあたりは略称を考える天才・アメリカの知恵が感じられますが、日本では「パトリオット」と「ペトリオット」の2つが混在しているのが現状です。マスコミなどは前者で呼ぶ一方、日本政府と自衛隊は公式呼称として「ペトリオット」を使っており、実際の英語発音も後者の方が近いです。ちなみに、航空自衛隊では「ペトリ」の愛称で親しまれ、実際に運用する高射隊の自衛官は「弾職人」と書かれたTシャツを愛用しています。
ペトリオットは元々は航空機を撃墜する地対空ミサイルとして開発されたものの、1991年の湾岸戦争でイラク軍の弾道ミサイルを撃墜したことで一躍注目を集め、航空自衛隊が2006年に導入したPAC-3は弾道ミサイルにも対処できるように改良されたバージョンです。
PAC-3はミサイル発射機を中心に多機能レーダーや射撃管制装置、情報調整装置、電源などを搭載した5台以上の車両でひとつのセット(中隊)を構成し、展開後は最低3名による遠隔操作ができるようになっています。通常は防空指令所の統制下で迎撃を行いますが、もし指令所が機能を喪失したり、通信が途絶した場合はこれら各種装置のおかげで現地部隊だけで独立戦闘を遂行することが可能です。

前述のようにPAC-3は弾道ミサイル防衛における最後の砦であるものの、その射程は20-30kmほどと短く、秒速数kmで突入してくる弾道ミサイルへの対処時間はわずかといえます。さらに、よく用いられる例えとして「ピストルの弾をピストルで撃ち落とすようなもの」がありますが、まさに核心を突いた表現であり、撃ち漏らしたら二度目のチャンスはない点を考えると本当の意味での最終手段なのです。そのため、通常は1個の目標に対して2発のPAC-3を発射することで撃ち漏らす可能性を減らします。
発射されたミサイルは多機能レーダーに誘導された後、自らもレーダー波を出して目標を捕捉し、最後は細かいモーターの噴射を使った微調整をしながら目標を撃墜します。この際、「CRI」と呼ばれる従来型は直撃によって目標を破壊する一方、最新型の「PAC-3 MSE」は衝突直前に小さな破片を多数放って目標を破壊します。
ここで気になるのが命中率・迎撃成功率ですが、米軍の実験では83%という数字が出ています。ただし、これは新しいソフトウェアに更新する前の数字で、更新後は100%という成功率を叩き出しました。一方、肝心の航空自衛隊はPAC-3による弾道ミサイル迎撃試験を何度か実施した結果、今のところは100%の命中率を維持しています。
もちろん、実際の有事では試験とは異なる要因(弾道ミサイルの発射角度や弾数など)が加わるのでこの数字をそのまま鵜呑みにするのは危ういかもしれませんが、弾道ミサイルの迎撃自体が極めて難易度の高い技であることを考えれば、この精度は今のところ望み得る最高峰のものと言わざるを得ないでしょう。
PAC-3の配備状況と進化する対応能力
PAC-3は全国24個の高射隊に合計48基の発射機が配備されていますが、それぞれの防空範囲は直径50kmほどなので残念ながら日本全土をカバーすることはできません(イージス艦が展開していれば話は別)。ただし、平時は高射隊に配備されているPAC-3も移動式の利点を使って必要に応じて各地に展開でき、過去には北朝鮮が弾道ミサイルの発射を繰り返した2016年には島根県や愛媛県に緊急展開したほか、防衛省がある市ヶ谷には普段から展開して首都中枢を守っています。
さらに、現在は防護範囲を拡大させた最新型の「MSE」への移行が完了したことで対処能力、特に複雑な機動をする小型目標への能力が向上しました。また、発射機は対航空機用の「901型」から対弾道ミサイル用の「902型」「903型」が存在し、最大装填数はそれぞれ順に4発、16発、12発となっていますが、最後の「903型」で装填数が減ったのは大型化したMSE専用の発射機だからです。
このように年々高まる脅威に対応するためにアップグレードされているPAC-3ですが、今後も改良型ミサイルの開発やレーダーを含む支援装置の能力向上を行うことで弾道ミサイル防衛における終わりなき進化を続ける見込みです。
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