僚艦も守る防空エキスパート
防空能力の高い軍艦といえば、「神の盾」と称されるイージス艦が真っ先に思い浮かびますが、海上自衛隊には汎用護衛艦でありながら「和製イージス」の異名を誇る防空担当がいます。
それが「あきづき型」と呼ばれるもので、前級の「たかなみ型」から防空能力を格段に向上させた4隻は、艦名も旧日本海軍の防空駆逐艦「秋月型」から引き継ぎました。
- 基本性能:「あきづき型」護衛艦
排水量 | 5,050t(基準) |
全 長 | 150.5m |
全 幅 | 18.3m |
速 力 | 30ノット(時速55.6km) |
乗 員 | 約200名 |
兵 装 | 62口径5インチ砲×1 垂直発射装置(VLS)×32 20mm CIWS×2 90式対艦ミサイル×8 3連装短魚雷発射管×2 魚雷防御装置 電子戦装置 |
艦載機 | SH-60K哨戒ヘリ×1 |
同型艦 | 4隻 |
建造費 | 1隻あたり約750億円 |
本来、艦隊防空はイージス艦の役割ですが、近年は弾道ミサイル対応(BMD)に忙殺されるケースが多く、代わりに「あきづき型」が艦隊防空の一部を担うようになりました。
イージス艦のサポートを任される「あきづき型」は、新しい射撃指揮システム「FCS-3」によって自艦以外の味方も守れる「僚艦防空能力」を獲得しました。
そして、レーダーは固定式の多機能レーダー(フェーズド・アレイ・レーダー)を四方に配置した結果、広域かつ全周360度の常時警戒が可能となりました。迫り来る目標に対して、射程約50kmの「ESSM」対空ミサイルで迎撃し、8発以上は同時誘導できるとされます。
「たかなみ型」の同時対処能力が2個ほどだった点を考えれば、「あきづき型」が従来型を凌駕する能力を有しているのがわかります。
ほかにも、新しい情報処理・戦闘指揮システムのおかげで、対空から対潜に至るまでの各機能が統合され、反応速度の飛躍的向上、情報共有能力の強化を実現しました。
高性能がゆえに「ミニ・イージス」とさえ呼ばれる反面、探知距離はイージス艦と比べて約200km短く、同時対処能力においても本家にはおよびません。
それでも、イージス艦を補完する防空担当は果たせる見込みで、「あきづき型」4隻は艦隊防空と弾道ミサイル防衛の両立が難しい「こんごう型」が所属する部隊に1隻ずつ配備されています。
「次世代」に向けた設計
汎用護衛艦で初めて僚艦防空能力を持つ「あきづき型」は、船体設計も従来とは一線を画しており、特にステルス性を意識したデザインが目に付きます。
例えば、艦橋上のマストはレーダー反射面積を低減させる小型のステルス・タイプを採用して、魚雷発射管などの装備も艦内収容式に変更して外の「凹凸」を減らしました。
こうした設計はその後に建造された護衛艦の基準となり、最新の汎用護衛艦「あさひ型」に至っては「準同型艦」と呼べるほど設計が似ています。おかげ両者は混同されがちですが、防空重視の「あきづき型」に対して、対潜能力に重きを置く「あさひ型」は僚艦防空能力がありません。
増える任務に圧迫されている海自は、BMD対応に拘束されたイージス艦を解放して本来の任務に充てたいものの、イージス・アショア計画の中止によって頓挫した状況。
代替としてBMD専属のイージス・システム搭載艦が2隻建造されますが、艦隊防空の一翼を担う「あきづき型」の重要性は今後も変わらないでしょう。
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