海自潜水艦の主要兵器として
水上艦艇にとって最も厄介な兵器といえる魚雷は、吃水線下に命中することで船内に大量の海水を流入させて沈没の危機に至らしめます。また、船の真下で爆発した場合は「バブルパルス現象」によって船体が真っ二つに切断される可能性が高いことから水上艦の悪夢と言えるでしょう。駆逐艦同士の雷撃戦や航空機による肉薄雷撃がなくなった現代では主に潜水艦が放つ兵器となり、海上自衛隊の潜水艦にも国産の「89式魚雷」が常に搭載されています。
⚪︎基本性能:89式魚雷
重 量 | 1,760kg |
直 径 | 533mm |
全 長 | 6.25m |
速 力 | 最大70ノット(時速130km) |
射 程 | 約40〜50km |
深 度 | 約900m |
価 格 | 1本あたり約1億円 |
1970年〜80年代にかけて開発された89式魚雷は防衛産業の常連・三菱重工業が製造する潜水艦向けの長魚雷ですが、水上艦が近距離で敵潜水艦を攻撃するために用いる短魚雷と比べて全長や射程が長いことから「長魚雷」と区分されます。この89式魚雷は海自潜水艦のうち、「おやしお型」と「そうりゅう型」潜水艦で運用中ですが、後者に搭載されたものは発射管の自動装填装置に対応した改良型なので「89式魚雷(B)」と区別されることがあります。
89式魚雷は高性能センサーを搭載して追尾能力を向上させるとともに、従来より射程と到達可能な深度を伸ばすことで潜水艦への攻撃力も高めましたが、やはり最大の特徴とされるのが「雷速70ノット(時速130km)」という脚の速さです。この高速化によって30ノット(時速55.5km)しか出せない水上艦は回避運動のみで魚雷をかわすことがほぼ不可能になった一方、誘導についても89式魚雷は自ら音を出して探知するアクティブ・ソナーと目標が発する音を捉えるパッシブ・ソナーの両方を備えているうえ、有線ワイヤーを使った精密誘導もできます。

この国産魚雷のライバルとされるのがアメリカ海軍が使用するMk48魚雷になりますが、比較すると魚雷としての基本性能はあまり変わらないものの、深度や射程、速力では89式魚雷に軍配が上がります。海洋国家・日本にとって潜水艦は一種の「戦略兵器」と見なされるほどであるため、その潜水艦が用いる主武装の魚雷は超重要兵器なのです。
今では潜水艦も海中からハープーン対艦ミサイルなどを撃てるものの、水上艦にとっては回避や迎撃の難易度では魚雷の方が厄介であり、潜水艦にとってもやはり敵を仕留めるのは魚雷という意識が強いといえます。したがって、旧日本海軍の頃から得意分野として注力してきた熱意と重視する姿勢は今も変わっておらず、89式魚雷はその伝統をしっかり受け継いだ存在といえるでしょう。
ただ、雷速70ノットを誇る89式魚雷も進化した囮装置やジャミングを含めた各種防御手段の前に能力不足が指摘されていることからこれらへの対応能力と水深の浅い沿海域での探知力を高めた後継の18式魚雷が開発されました。最新の「たいげい型」潜水艦以降はこの18式魚雷を搭載していく予定ですが、対中国を見据えて潜水艦を22隻体制に増強したばかりの海自にとって「おやしお型」と「そうりゅう型」は主力であり、これらが使用する89式魚雷の重要性もしばらくは変わりません。
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