渡し船にもなる92式浮橋システム
インフラが整備されている現代日本ではあまり意識しませんが、いつも当たり前のように渡っている大小さまざまな河川は天然の障壁でもあり、橋がなければ移動を阻害されたり、手間のかかる迂回を余儀なくされます。
そして、こうした橋梁は有事では狙われる可能性が高いため、陸上自衛隊は自前で仮設橋を架ける専門部隊と特殊装備を持ち、橋を落とされても短時間で復旧可能です。
この究極のDIYを支えているのが「架橋装備」と呼ばれる車両で、いくつかあるなかで今回は連結によって大きな河川も乗り越えられる「92式浮橋」と比較的最新の「07式機動支援橋」について見ていきます。
⚪︎基本性能:92式浮橋・07式機動支援橋
92式浮橋 | 07式機動支援橋 | |
速度(運搬車) | 時速95km | 時速85km |
架橋距離 | 最大104m | 最大60m |
架橋幅 | 4m | 4.2m |
耐用重量 | 50t | 60t |
価 格 | 不明 | 約12億円 |
90式戦車の導入に合わせて登場した92式浮橋は「橋節」という水に浮く橋桁を連結させて、その上に道路マットを敷く仕組みですが、水量や川床の地形に影響されずに架橋できるのがポイント。
一方、水に浮いているので川に流されやすく、浮橋を水流と逆方向に押す動力ボートが欠かせません。
このように92式浮橋はひとつの車両ではなく、橋節や道路マット、敷設装置、動力ボートなどを載せた複数のトラックで構成される「架橋システム」なのです。
まず、最初に動力ボートを水面に展開させてから橋節を川に投下しますが、このとき橋節が自動的に展開して長さ約7.5mのフロートとして機能します。
その後、動力ボートで橋節を移動させながら連結作業を行い、最後に道路マットを敷設すれば仮設橋の完成です。

ひとつのシステムで最長104mまで建設可能で、所要時間も熟練した部隊であれば3時間ほどといわれています。
また、両岸を繋げずに橋節と動力ボートを組み合わせた艀(はしけ)としても使えることから、一刻を争う災害派遣では応急処置として好まれます。
迅速な架橋は「07式機動支援橋」
さらに短時間で橋を架けたい場合は「07式機動支援橋」が登場しますが、こちらは「ビーム」という梁(はり)を両岸に渡して、橋節を置いていくスタイルになります。
81式自走架柱橋の後継であるこの架橋装備は、ビームや橋節の運搬車、そしてクレーンの付いた架設車などで構成されるシステムで、最長60mの仮設橋を2時間で建設可能です。
07式機動支援橋は水量や水流、川床の地形を気にすることなく使えるうえ、自動化による省人化と作業効率の向上を実現した反面、橋の長さでは92式浮橋には劣ってしまいます。
しかし、海外のような大規模河川が少ない日本では河口付近でなければ60mで足りる箇所が多く、機動性と迅速性の利点を考えた場合、災害が多発する日本のニーズに合致した装備です。
なお、92式浮橋と07式機動支援橋はどちらも50トンの重量は耐えられるので、戦車を含めた全ての陸自車両に対応しています。
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