負けなしの強さ?FTC部隊訓練評価隊は何をするのか

銃を構えた自衛官と双眼鏡をのぞき込む自衛官 陸上自衛隊
この記事は約3分で読めます。

不敗神話を誇る陸自版「アグレッサー」

陸上自衛隊の各部隊は訓練でその技量を高めますが、自分たちだけでは能力向上にも限界があり、どうしてもマンネリ化が否めません。

そこで、別部隊との手合わせを通じて、変化に富んだ訓練ができるわけですが、特に実戦に近い本格的な状況を経験できるのが「FTC訓練」と呼ばれるもの。

「FTC」とは富士トレーニングセンターの略で、山梨県の北富士駐屯地にある訓練支援部隊とその関連施設のことを指します。ここにある広大な演習場で「バトラー」という交戦訓練機材を用いた模擬戦闘が繰り広げられます。

実弾の代わりにレーザー光線を使うバトラー・システムでは、小銃や戦車砲にレーザー発射機を、隊員と車両には感知器を取り付けて、命中の有無を瞬間的に判定します。

このバトラーのおかげで、今までの空砲やBB弾と比べてはるかに正確な判定が可能となり、より実戦に即した模擬戦闘を行えるようになりました。

その差はバトラー戦闘を初めて体験した部隊が「今までの訓練は一体何だったのか」という感想を漏らすほど。

また、このシステムでは司令部が味方の位置や損害状況をリアルタイムで把握したり、模擬戦闘のデータを正確に記録するので、現場指揮の練習でもかなり役立ちます。

従来基準と比べて、厳格な自動判定によって戦死・戦傷が容赦なく記録されるため、指揮官側も結構なショックを受けるそうです。

バトラーシステムを使う隊員(赤丸が装置の一部)(出典:陸上自衛隊、筆者加工)

そして、このバトラー・システムを使った模擬戦闘において、敵役を演じるのが「部隊評価訓練隊」になります。むろん、全国からやってくる各部隊の敵役を担うわけですから、精鋭レベルの隊員と90式戦車などの重装備が所属しています。

さらに、対決の場となる演習場は自分たちのいわば「ホーム」であって、その隅々まで知り尽くしているアドバンテージもあります。

敵役を演じて訓練相手を鍛える「アグレッサー」といえば、航空自衛隊の最強パイロットが集う飛行教導群が有名ですが、部隊評価訓練隊はその陸自版(特に普通科向け)と思っていいでしょう。

この挑戦者たちを鍛える任務、地の利がある点から、部隊評価訓練隊は発足以来20年間にわたって負けたことがないという「不敗神話」を持ち、あの第1空挺団ですら勝てなかったとか。

各部隊が自信を持って送り出したチームが、文字通り「瞬殺」された話が多々あるなど、FTC部隊はまさに「チート扱い」でした。

敵役を演じる部隊評価訓練隊の74式戦車(出典:陸上自衛隊)

ところが、この無敗記録は2019年11月に終わりました。

その相手は青森県・弘前駐屯地の第39普通科連隊で、FTC訓練史上初の総合勝利を収めました。

この第39普通科連隊は、過去のFTC訓練で瞬殺された苦い経験を持ち、雪辱を果たすためにひたすら研究と訓練を重ねました。その結果、部隊評価訓練隊の隊長に「事実上の敗北」と言わしめる快挙を成し遂げたのです。

ここで重要なのは、FTC訓練は実戦に近い模擬戦闘を経験させることで、成長するための挫折、そして能力向上のきっかけを作っている点。

日々の訓練とのギャップを感じ、より現実的な訓練を通じて練度を上げるのが目的です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました