軍事分野の外交官+スパイ
「外交」といえば外務省職員が担う仕事ですが、軍事関連となれば「防衛駐在官」の出番になります。
いわゆる「駐在武官」である防衛駐在官は防衛省自衛隊から外務省に出向という形で在外大使館に派遣され、軍事分野における外交官として相手国の軍事情報を収集するのが主な仕事です。
むろん、外務省職員もこうした情報収集に従事するものの、軍に関わる情報はやはり同じ軍人同士の方が情報交換しやすい傾向があります。
人間はライバルでも同じ業界に属している人には不思議と一定の親近感を抱きますが、防衛駐在官もこうした心理を利用して軍人同士の関係でしか入手できない情報を獲得しようと試みます。
防衛駐在官は軍事における日本代表でもあるので式典や行事に参加することが多いですが、こうした場でカウンターパートや他国の駐在武官と交流しつつ、何気ない会話を通じて貴重な軍事情報を掴もうとします。
ある意味、合法かつ公認のスパイと言えるかもしれませんね。当然ながら相手国もこうした事情を承知の上で接触してくるので、そこには心理戦を含む情報戦が繰り広げられるのです。
ほかにも、軍事分野での相互交流や協力を促進するのが防衛駐在官の役割ですが、この辺りは両国の関係性次第と言えるでしょう。
例えば、オーストラリアのような準同盟国であれば共同訓練や技術協力に至るまでの密接な交流を進められますが、事実上の仮想敵国である中国の場合は協力よりも軍事動向の確認や偶発的な軍事衝突を防止するための関係構築が優先されます。
実際に軍事衝突や事故が発生した場合、軍事に明るくない外務省職員よりも軍人同士の方が理解し合えるケースが多く、緊張緩和につなげることが可能です。つまり、派遣先によって仕事の中身、幅、そして難易度が大きく異なるのです。
派遣先の「花形」はアメリカ
さて、防衛省は現在約50箇所の在外大使館に70名以上の防衛駐在官を派遣していますが、各大使館には概ね1〜2名の1佐また2佐が配置されている状況です。
任期は約3年で、帰国後は勲章に相当する防衛記念章が授与されます。
ちなみに、戦前は陸海軍がそれぞれの駐在武官の派遣したことで業務の重複や情報共有の阻害要因になっていましたが、戦後はその反省から陸海空で一元化しました。
最も派遣人数が多いのが同盟国アメリカの6名ですが、ここは唯一「将官」を派遣していることからも特別扱いなのが分かります。外務省の中でも駐米大使が一番のエリートポストであるように、防衛駐在官の中でも別格かつ花形と言える派遣先がアメリカなのです。
次いで多いのが中国、韓国、オーストラリアの3名ですが、中国と韓国は隣国であるがゆえに、オーストラリアは準同盟国として厚めに配置していると思われます。
ほかは前述のとおり1〜2名の派遣ですが、派遣先によっては近隣国も兼務することがあります。例えば、中東のクウェートに派遣された防衛駐在官はイラクとカタールも担当することになり、ベルギーの場合は同国に本部を置くNATOやEUも兼任します。
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