化学テロから災害派遣まで出動する働き者
日本の防衛を主任務とする自衛隊は幸いにも一度も戦闘を経験していませんが、事実上の有事といえる大規模災害やテロ事件への対応を行ってきた歴史はあり、こうした活動において消毒や除染という現地の公衆衛生を保つうえ欠かせない役割を果たしてきたのが陸上自衛隊の化学科に配備されている「除染車」です。
⚪︎基本性能:除染車3形(B)
重 量 | 12.5t |
全 長 | 6.9m |
全 幅 | 2.5m |
全 高 | 2.9m |
装 備 | 水槽(2,500L) 加温装置 散布銃×2 散布ノズル |
価 格 | 1両あたり約6,500万円 |
陸自部隊でよく見られる73式大型トラックを改造した除染車の本来任務は化学兵器や核物質による汚染を取り除くことで、化学防護車とともに全国の化学科に配備されています。ただし、化学防護車のように車内の乗員を外の有害物質から守る防護力はなく、乗員や除染要員は防護服を着用しなければなりません。
荷台には除染に必要な水および有毒物質を無毒化する中和剤が2,500リットルも入るタンク、そしてこれらを45℃まで温める装置が搭載されていますが、加温することで除染効果が高まるそうです。加温後は長さ15mの散布銃、もしくは車体の前部と側面に設けられたノズルを使って放水することで周囲や人の除染を行います。
もともと化学戦や放射性物質の除去を見据えた装備のため、地下鉄サリン事件や東海村の臨界事故、福島第一原発事故のような警察や自治体の対応能力を超える「有事」に投入され、除染活動を実施してきました。さらに、
地震や洪水といった災害発生時においても、被災地の防疫作業を通じてインフラが復旧するまで衛生環境を維持してきた実績があります。
このように災害や事故などで常に活躍してきた除染車ですが、より迅速かつ効率的な除染、装備全体のコンパクト化を目指して開発された「新除染セット」が後継となる予定です。この新除染セットは化学科と一般部隊向けにそれぞれ別開発された人員等除染用、そして広範囲を担当する地域等除染用の計3種類に区分され、全ての種類が輸送機による空輸を想定した作りになっています。また、3つのタイプのうち、特に化学科部隊に配備されるものは大量の人員を効率よく除染したり、廃水処理や原子力災害にも対応できるうえ、液体による除染ができない装甲車や航空機の中の除染を特殊なガスによって行う新機能も付与されました。
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