地獄を乗り越えたレンジャー隊員の強さ

陸上自衛隊
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屈強な兵士を育てるための特別プログラム

日頃から訓練と体力錬成に取り組み、最も「ザ・軍隊」といえる陸上自衛隊には「レンジャー」と呼ばれる特別な資格が存在します。これは山中でサバイバル生活を送りながら潜入や破壊工作を行うための資格で、レンジャー課程という教育訓練コースを卒業して初めて獲得できるものです。

この課程は自衛隊創設まもない1950年代にアメリカ陸軍のレンジャー課程を参考に作られ、一般隊員よりも戦闘能力、肉体的および精神的な強靭性に優れた兵士の育成を目指します。一般的には山でサバイバル訓練をするイメージが強いレンジャー課程ですが、ほかにも複数のコースが存在します(後述)。

まず、一般的なレンジャー訓練である「部隊集合教育」について説明すると、これは各師団内の連隊が毎年持ち回りで実施する訓練で、受講隊員は自ら志願もしくは上官の推薦で応募した後、学力・体力テストに合格しなければなりません。そして、この体力テストで足切りを食らう者が多く、普段から所属部隊でトップクラスの体力を目指す必要があります。

ちなみに、レンジャー課程は残念ながら女性隊員は受けられませんが、第1空挺団でも初の女性隊員が誕生するなど防衛省全体で女性の活躍が推進されているなかで、女性レンジャーが誕生する日も時間の問題と思われます。

ゲリラ戦を想定した過酷すぎる訓練

晴れて入門テストに合格した者は、約3ヶ月にわたって体力的にも精神的にも限界に挑む地獄の日々を経験します。例えば、訓練期間中は教官のどんな命令に対しても絶対服従が要求され、返事も大声で「レンジャー!」と叫ばなければなりません。もちろん、教官側もわざと「鬼」を演じながら安全第一で訓練を進めますが、その過酷さは過去に死亡事故が起きているほどです。このように受ける側も、受けさせる側も気を付けないと本当に亡くなってしまうのがレンジャー訓練なのです。

最初の「基礎訓練期間」では高所から飛び降りたり、ひたすら懸垂や腕立て伏せ、10マイル持久走(16km)を実施して胆力と体力を鍛えます。その後、山地での戦闘やサバイバルに必要な知識を身に付けますが、ここであの有名な「生きた蛇を捌いて食べる」訓練が登場します(鶏の場合も)。蛇そのものは教官が事前に用意して、意外にも淡白で美味だそうですが、いざという時に食べられる野生の動植物をきちんと把握するのが訓練の目的です。

山中を行軍するレンジャー訓練生(出典:陸上自衛隊)

メディアでもよく取り上げられるこの山中でのサバイバル訓練では、ほかにも以下のような項目を実施します。
・ヘリからの降下、ゴムボートを使った潜入
・敵に対する待ち伏せ攻撃
・敵の補給線や指揮所への潜入破壊活動
・橋梁・トンネル爆破などの後方撹乱
・捕虜の獲得を目指す襲撃、捕虜となった味方の奪還
・敵地でのパルチザン活動

こうした訓練によってレンジャー候補生は少人数、さらにいえば「最後の一兵」になってもゲリラ戦を展開する技能を身に付けます。

そして、集大成となる数日間にわたる不眠不休の訓練では隊員のほとんどが極限状態に追い込まれ、食事も睡眠もロクにとれず、意識が朦朧とするなかで、わずかに残った気力のみで与えられた任務を達成しなければなりません。この最後の関門を乗り越えると、家族と多くの同僚が出迎える駐屯地に帰還して、各人にレンジャー徽章を授与する帰還式が行われます。

幹部用、そして空挺と冬季戦に特化した資格もある

ここまで一般的なレンジャー課程の流れを見てきましたが、前述のように他のレンジャー課程も存在します。そのひとつが「空挺レンジャー課程」というもので、これは第1空挺団の隊員が受ける空挺降下に特化したプログラムです。そして、もうひとつが雪中戦を想定した「冬季レンジャー課程」であり、こちらは主にスキーを用いた遊撃戦の訓練が中心となります。

最後にこれら各課程における教官を養成する「幹部レンジャー課程」について紹介します。これは富士学校で行われる幹部自衛官のみを対象にしたプログラムで、レンジャー指導者を目指すために他の課程よりも指導法に重きを置いているのが特徴です。

空挺隊員は「空挺レンジャー」を目指す(出典:陸上自衛隊)

このように複数種類が存在するレンジャー資格ですが、陸自隊員14万人のうち、こうした資格を持つのは約6〜8%ですからどの徽章を持っていても部隊では一目置かれます。ただ、残念ながらレンジャー資格の保有者だから特別手当が支給されるわけではなく、俗に言われている「レンジャー手当」なるものは存在しません。これはレンジャー資格保有者が多い第1空挺団や水陸機動団に付く空挺降下手当や特殊作戦隊員手当から生まれた誤解と思われます。

また、ほかにも多い勘違いとして「レンジャー部隊」が挙げられますが、実はレンジャー隊員のみを意図的に集めた特別部隊は存在しません。しかし、第1空挺団は後方要員以外はほとんどレンジャー隊員なので、事実上のレンジャー部隊と見なせるかもしれません。

限界まで挑む訓練を乗り越えて徽章を手に入れたレンジャー隊員は全体比率としては稀ですが、実際の数字で見ると数千人規模になります。そのため、精鋭部隊に集中させている点を考えても、全国の部隊にはそれなりのレンジャー隊員が属していて、こうした隊員は自分の部隊の精強さを支える中核的存在です。

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