期待の高性能・大型自走砲として
陸上自衛隊は敵に対する火力投射用に大小さまざまな火砲を保有していますが、砲兵戦においては同じ場所で撃ち続けるとすぐに位置が露見することから迅速な移動が可能な「自走砲」が重宝されます。
そのため、陸自も冷戦期から対ソ連を見据えた国産自走砲に注力してきた歴史を持ち、その集大成ともいえるのが今も現役の「99式自走155mm榴弾砲」です。
⚪︎基本性能:99式自走155mm榴弾砲
重 量 | 40t |
全 長 | 12.2m |
全 幅 | 3.2m |
全 高 | 3.9m |
速 度 | 時速50km |
乗 員 | 4名 |
兵 装 | 52口径155mm榴弾砲×1 12.7mm重機関銃×1 |
射 程 | 30km |
行動距離 | 約300km |
価 格 | 1両あたり約10億円 |
「ロングノーズ」という愛称で知られる99式自走砲は、それまでの75式自走砲と比べて大型化かつ高性能化しており、同じ155mm榴弾砲でありながら射程は1.5倍の30kmまで伸びたうえ、長射程弾を使えばさらに40kmまで延伸可能です。
また、搭載された自動装填装置は砲弾のみならず、装薬の装填にまで対応した珍しいもので、最強と謳われるドイツのPzH2000自走榴弾砲でも実用化されていません。
こうした自動装填装置のおかげで毎分6発の発射速度を3分間にわたって発揮できますが、さらなる継続砲撃を行う場合は専用の弾薬給弾車と連結します。
ただし、迅速な陣地転換が求められる現代砲兵戦でこのような運用方法が実施されるかは疑問です。

99式自走砲は衛星測位システムを使った位置確認が可能となったうえ、射撃管制装置も特科(砲兵)部隊向けのデータリンク・システムと連動することで射撃角度や方位の調整が簡素化され、照準から発射まで射撃指揮所が遠隔操作できるようになりました。
これは従来の75式自走砲が測量を通じて自車位置を把握し、射撃指揮所とも無線でやり取りしていた点を考えると雲泥の差といえます。
冷戦終結と高コストで少数配備
さて、高性能な自走砲として期待された99式自走砲ですが、開発完了の頃には仮想敵・ソ連が消滅して、着上陸侵攻の可能性は減っていました。
しかも、大型火砲の必要性を疑問視する声に加えて、自衛隊特有の少数調達のせいで、1両あたり10億円という90式戦車並みの高単価になりました。
その結果、最終生産数は136両という200両以上の75式自走砲を更新するには全く足りない数で終わります。
このように高コストで調達がふるわなかった99式自走砲は、今も対ロシア用に北海道に集中配備されています。その反面、未だに旧式のFH70榴弾砲を装備しているその他部隊は、最新の19式装輪自走155mm榴弾砲に順次更新していく見通しです。
そもそも、火砲の定数が400門から300門にまで削減され、島嶼防衛に向けた態勢強化が進むなか、空輸性と機動力に優れた火砲が求められています。
したがって、重量40トンの99式自走砲はトレーラーと船舶での長距離移動を余儀なくされますが、25トンの19式装輪自走砲ならばC-2輸送機による空輸可能なので、離島防衛ではこちらが適任でしょう。
しかし、装甲化されていない19式装輪自走砲は、防御力では99式自走砲に劣り、九州などで本格的な砲兵戦となった場合は、北海道からはるばる輸送する可能性があります。
南西方面での有事が現実味を帯びるなか、冷戦期の名残である「北方偏重」を是正しなければなりませんが、着上陸侵攻の可能性がゼロではない以上、一定の備えは残しておかねばなりません。
今後は本州以南の部隊が機動性に優れる19式装輪自走砲の配備を進める一方、99式自走砲も北方の守り、そして攻守ともに兼ね備えた火砲として現役を続けます。
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