陸軍国・ドイツが誇る優秀な自走砲
ドイツといえば歴史的に陸軍国であり、戦車を筆頭に優秀な兵器を開発するイメージが強いですが、現在も持ち前の技術力を活かして高性能な各種兵器を運用しているうえ、欧州勢を中心とした各国への輸出にも成功しています。その中にしばしば世界最強とも評される自走砲がありますが、それが2022年のロシア=ウクライナ戦争でも活躍した「PzH2000自走榴弾砲」です。
⚪︎基本性能:PzH2000自走榴弾砲
重 量 | 55.3t |
全 長 | 11.67m |
全 幅 | 3.58m |
全 高 | 3.46m |
乗 員 | 5名 |
速 度 | 時速60km |
行動距離 | 420km |
兵 装 | 52口径155mm榴弾砲×1 7.62mm機関銃×1 |
発射速度 | 毎分10発(最速) |
射 程 | 最大67km |
価 格 | 1両あたり約10億円 |
PzH2000は「パンツァーハウビッツェ2000(装甲榴弾砲2000)」の略称であり、1998年に部隊配備が開始したドイツの自走砲です。名前に付いている「2000」という数字は本砲の開発時に2000年の実用化を目指していたことに起因します。
55トンという重量と見た目の「鈍重さ」の割には舗装された道路で最高時速60km以上を発揮できる機動力を持っており、不整地でも時速45km程度の速力を出せます。これはドイツが得意とする高性能なエンジンと変速機に加え、レオパルト1戦車の頑丈なキャタピラやサスペンションなどを流用しているためです。
防御力については装甲を強化することで12.7mm重機関銃弾や至近弾の破片にも十分に耐えることができ、NBC兵器(核兵器による放射能汚染、生物・化学兵器)に対する一定の防護システムも装備されています。実戦の際は弱点の車体上部を中心に追加の防護資材を設置することで防御力をさらに高めるそうです。

肝心の火力はいわゆる西側標準の155mm榴弾砲を備えていますが、PzH2000は従来よりも自動化を進めることによって毎分8発という高い発射速度を実現しました。まず、砲の角度に合わせてそのまま装填できる自動装填装置が付いているうえ、目的に応じて弾種を選択する自動弾薬データ管理装置が装備されているので発射までにかかる手間をかなり省くことに成功しました。さらに、PzH2000の車内は他の自走砲よりもゆとりある設計になっていることから60発の砲弾とそれに付随する装薬を収容可能であり、継戦能力の点でも優れています。
射撃時にはGPSを使った照準装置と自動化された射撃管制装置を用いることで精度の高い砲撃を行えます。気になる射程距離については、通常の砲弾は36km、ベースブリード弾(ガス噴射によって空気抵抗を減衰させるタイプ)であれば47km、ロケット補助推進弾を使えば最大67kmまで延伸可能です。実はこれらは同世代の自走砲と比べても「長射程」と評することができ、特に通常砲弾で最大36kmというのはなかなかの距離です。
さて、自走砲にとっておそらく最も大事と言えるのが「シュート・アンド・スクート能力」ですが、これはいかに素早く陣地展開を行い、射撃後は迅速に撤収できるかを問うもの。火砲というのは同じ場所で撃ち続けていると敵に位置がバレて反撃を受けますが、対砲兵レーダーが発達した現代においては1発の射撃で位置が露見してしまう可能性があります。
そのため、撃ってはすぐ逃げるという技が以前よりもはるかに求められますが、PzH2000はこの点でも非常に優れています。例えば、PzH2000は陣地展開にかかる時間がわずか30秒ほどで撤収時間も同様です。したがって、30秒で射撃準備をした後、1分間で数発を敵陣に対して放ち、反撃を受ける前に30秒で撤収を完了します。
他と比較してもやはり優れている砲
さて、高い射撃速度と長射程、優れた機動力を持つPzH2000は他の自走砲と比べてもやはり「優秀」と言えます。例えば、同じ155mm砲を装備した自衛隊の99式自走155mmりゅう弾砲と比較した場合、発射速度と射程距離ではやはりPzH2000が上回っています。また、PzH2000は99式自走砲よりも15トン以上重いにもかかわらず、カタログスペック上は10km速い走行能力を発揮できるのです。
むろん、自衛隊の99式自走砲はPzH2000でもしなかった装薬の装填も自動化するなどの優れた点を持つうえ、運用想定が異なるので安易に比較はできませんが、自走砲としての総合的評価ではPzH2000に軍配が上がるのではないでしょうか。
ただし、PzH2000はあくまでキャタピラ式の自走砲であり、自衛隊の最新砲・19式装輪自走155mm榴弾砲のように主流になりつつあるトラック式の自走砲と比べると機動力では劣ります(世代が違うのでフェアではありませんが)。ただ、それでもトラック式で同じ欧州のフランス産・カエサル自走榴弾砲と比較しても機動力では敵わないものの、発射速度や精度では決して負けていません。

このように今でも世界最高峰の自走砲の一つであるPzH2000ですが、ドイツ以外にもイタリア、オランダ、リトアニア、ギリシア、クロアチアなどが導入しており、ドイツの軍事輸出の一部を担う存在でもあります。そして、2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻では火力で劣るウクライナ側にドイツ及びオランダから22両が供与されました。同砲の訓練や弾薬の提供もドイツが引き受けており、40km以上の射程でも正確に射撃できることからアメリカのHIMARS高機動ロケット砲、MLRS多連装ロケットシステムなどと共にウクライナ軍で重宝されています。
ウクライナとしては火力支援はいくらでも欲しいのが実情であり、特に東部ドンバスの砲兵戦ではPzH2000は少数ながら比較的劣勢のウクライナ軍を米豪加が供与したM777榴弾砲と一緒に戦線を支えたと言っても過言ではありません。そのため、ウクライナも100両のPzH2000を購入する意向であり、ドイツも重い腰を上げて承認したそうです。終わりが見えず、消耗戦の様相を呈しているロシア=ウクライナ戦争ですが、砲兵戦力の重要性が再認識されていることもあって、PzH2000の真価にも注目が集まっています。
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