日本版スティンガーの防空能力はいかに?
空からの攻撃に弱い歩兵ですが、携帯式防空ミサイル(MANPADS)を使うことで一定の防空能力を獲得できるうえ、攻撃ヘリすら撃墜可能になります。そんなMANPADSの代表例がアメリカ製のスティンガーミサイルであり、これはロシア=ウクライナ戦争にも多数投入されてロシア軍のヘリや航空機を撃墜する戦果を挙げています。元々、スティンガーはソ連のアフガン侵攻に抵抗する武装組織に供与され、ソ連軍ヘリを撃墜したことで一躍有名になりました。
日本もスティンガーミサイルを導入した経緯を持っており、現在もAH-64Dアパッチ攻撃ヘリに空対空装備として運用されていますが、いわゆる歩兵向けに調達されたスティンガーは引退済みです。代わりに国産の携帯式防空ミサイルである「91式携帯地対空誘導弾」が各部隊に配備されています。
⚪︎基本性能:91式携帯地対空誘導弾
全 長 | 1.43m |
直 径 | 8cm |
重 量 | ミサイル本体:9kg システム全体:17kg |
速 度 | マッハ1.7 秒速651m |
射 程 | 5,000m |
高 度 | 3,500m以上 |
要 員 | 2名 |
価 格 | 1セットあたり5,500万円 |
「ハンドアロー」や「携SAM」の愛称を持つ91式携帯地対空誘導弾は防衛省の技術研究本部と東芝が開発した国産のミサイルであり、いわゆる「日本版スティンガー」と呼べる存在です。主に陸上自衛隊の普通科、機甲科、特科部隊の防空装備として配備されていますが、他にも基地防空用として航空自衛隊と海上自衛隊も導入しています。また、ミサイル自体は改良型も含めてOH-1観測ヘリコプターの自衛用に使われたり、高機動車に近距離地対空ミサイルとして搭載されるなど、派生型がいくつか存在します。
91式携帯地対空誘導弾はミサイルを収めた発射機と敵味方識別装置、バッテリーで構成されており、総重量は17kgほど。準備から発射まで1名の隊員で行うことができ、使い方は従来運用していたスティンガーと同じなので訓練を含めた運用面での互換性はあるようです。
ただ、スティンガーは赤外線誘導なのに対して、91式携帯地対空誘導弾は赤外線誘導装置と内蔵カメラを併用しているため、目標を画像認識したうえで誘導することができます。スティンガーはエンジン排熱を捉える必要がありますが、画像認識による誘導も可能な91式携帯地対空誘導弾は目標の真正面から撃てるうえ、赤外線誘導を妨害するフレアにも強いのが特徴です。

さて、1991年に採用されたハンドアローですが、2007年からはアップグレード版の「個人携帯地対空誘導弾(改)(SAM-2B) 」が調達されています。これは低空目標への対処能力を高めた改良型であり、携帯地対空ミサイルとしては初めて赤外線画像による誘導方式を採用することで夜間における命中率を高めました。
現時点で陸上自衛隊は91式携帯地対空誘導弾を700セット以上を調達しており、うち80セットほどが新型のSAM-2Bです。航空自衛隊と海上自衛隊の分も合わせると自衛隊全体で900〜1,000セットはあるのではないでしょうか。ここで注意したいのは「セット数≠ミサイル数」ということであり、継戦能力を考慮して1セットには2〜4発のミサイルが含まれると推測します。1セットあたりの価格はおよそ5,500万円と言われており、まさに1軒家が建つ金額ですが、優に十数億円するヘリコプターを撃墜できるのでコストパフォーマンスは良好と言えます。
ハンドアローvsスティンガーの勝者は?
ここで気になるのが世界的ベストセラーのスティンガーと国産のハンドアローではどちらが「上」なのか?
まず、カタログスペック的には91式携帯地対空誘導弾の方が赤外線妨害に強く、改良型のSAM-2Bは夜間戦闘能力でもスティンガーに勝ると推測できます。しかし、他の国産装備と同様にハンドアローは実戦経験がないので実際の能力は未知数であり、使ってみないと分かりません。そもそも兵器というのは、実戦でカタログスペック通りの性能を発揮するとは限らず、様々な要因に左右されつつ期待を下回ったり、あるいは上回ったりするものです。

一方、スティンガーミサイルの方はカタログスペック上はハンドアローよりも命中率は劣りますが、1978年のソ連によるアフガニスタン侵攻から現在のロシア=ウクライナ戦争に至るまであらゆる実戦を経験しており、携帯地対空ミサイルとして最も高い命中率を誇るとしてギネス記録にもなりました。
また、価格面では納入先が自衛隊しかなく、少数量産の国産ハンドアローの方が当然ながら高く、米軍を筆頭に多くの納入先を持つスティンガーには敵いません。したがって、実績と価格ではスティンガーに軍配が上がり、カタログ上は91式携帯地対空誘導弾の方が高性能といったところでしょうか。
むろん、カタログスペックも何かしらの根拠に基づいた数値であり、実戦経験がないからハンドアローが劣っているというわけではありません。少なくとも日本の技術を使った91式携帯地対空誘導弾は世界的にも有力な携帯地対空ミサイルであることに変わりなく、味方に防空能力を授ける一方で空を飛ぶ敵に対して大きな脅威を与えます。
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