自衛隊救難隊の本当の任務とは何か?

自衛隊の救難ヘリと救難機 自衛隊
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本来の役割は味方搭乗員などの救出

自衛隊の救難隊は災害派遣で常に活躍していますが、本来は墜落した味方搭乗員などを救出するのが任務です。

四方を海に囲まれ、多数の離島を抱えるが日本の有事は「海・空」を巡る戦いとなり、必然的に海難救助案件の多発が見込まれることから、これに備えた態勢を確立しなければなりません。

平時・有事を問わず、パイロットというのは時間とお金をかけて育て上げた存在なので、1名失うだけでも大きな損失です。生存している限りは助けるのが当たり前ですが、有事では敵も救難活動を妨害してきます。

よって、自衛隊の救難隊というのは、交戦状況下での救難(戦闘救難捜索)を想定した部隊であり、このあたりが警察や海上保安庁とは異なります。

さらに、救難態勢の有無が味方の士気に与える影響は大きく、救難隊が控えている事実だけでパイロットは「いざという時は助けに来てくれる」という安心感を持てます。

例えば、映画「アルキメデスの大戦」では被弾して脱出した米軍機パイロットがすぐさま味方飛行艇によって救助されて、それを目撃した戦艦大和の乗員が唖然とするシーンがありますが、これは片道任務の日本側と味方の救出体制が確立されているアメリカ側を対比したものです。

これに対して、今の自衛隊は世界有数の救難態勢を整えていて、特に航空自衛隊は「U-125A捜索機×2、UH-60J救難ヘリ×3」を基本編成とする救難隊を計10個も全国に配置しています。

こうした救難隊は、日頃から訓練やスクランブル任務に従事する戦闘機部隊を陰で支えており、常に1機のU-125AとUH-60Jヘリが出動できる即応態勢を敷いています。

そして、遭難機が出たらまずはU-125Aが先行して捜索を行い、発見後は後続のUH-60Jに救助を託す仕組みです。

海上自衛隊の救難隊が運用する「US-2」飛行艇(出典:海上自衛隊)

一方、海上自衛隊も救難飛行隊と呼ばれる専門部隊を擁していますが、こちらはUH-60Jヘリでは到達できない現場やヘリでは間に合わない時に世界トップクラスの性能で知られる「US-2救難飛行艇」を使って出動する救難隊になります。

この場合は、空自のU-125Aと連携しながら共同で救助にあたりますが、将来的には海自のUH-60Jを空自に移管するなど、航空救難体制を空自に一元化する動きが加速しています。

それでも、US-2の重要性は今後も変わることはなく、平時における離島の急患輸送はさることながら、アメリカは多数の艦船や航空機が損耗する台湾有事を見据えて海難救助能力の強化を課題とするなか、同盟国・日本のUS-2飛行艇に着目しているのです。

さて、ここまでは空自と海自について述べてきましたが、陸上自衛隊には専門の救難部隊は存在しないものの、必要に応じて各ヘリ部隊が救助活動を実施します。

特に、沖縄の第15旅団に所属するヘリコプター部隊は担当エリアに多くの離島を抱えるので急患輸送や災害派遣などに投入されるケースが多く、事実上の救難隊として活躍している節があります。

それでも、海上という特殊な環境下で行う海難救助は陸地のそれとは全く異なる専門性や技量が必要となるため、専門外の陸自部隊にとっては難しいでしょう。

主任務に備えるからこそ達成できる

このように最前線で戦う実戦部隊に一定の安心感を与え、いざという時にはしっかり救出するのが自衛隊救難隊の役割で、災害派遣や遭難事故、急患輸送はあくまで副次的な任務になります。

ただし、高度なレベルが求められる主任務をこなすだけの技能を持つがゆえに、ほかの任務も十分に達成できるのです。

そもそも、軍隊は普段から戦時想定の訓練に励み、自己完結を目指して装備力・組織力を高めているからこそ、災害派遣で給水や食料提供、入浴支援に至るまでの実力を発揮できるわけです。そして、これは救難においても同じです。

結局、国民にとって自衛隊が「最後の砦」である点は変わらず、警察や海上保安庁では対処しきれない事案が自衛隊の救難隊に回ってくるのも事実です。

実際、救難隊所属の自衛官が「海保が投げた案件をうちが受け持つ」と冗談っぽく語っていましたが、そこには誇りに加えて、国民を助ける最後の砦としてプロ意識が感じられました。

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