快進撃の立役者、アメリカのM978フューエルタンカー

アメリカ軍の燃料トラック アメリカ
この記事は約3分で読めます。

装甲部隊の進軍に欠かせない働き者

「素人は戦略を語り、プロは兵站を語る」という格言にあるように、いかに優れた戦略に基づいて質の高い兵士や高性能兵器を投入しても、安定した補給がなければ全てが無に帰します。

軍隊の兵站能力はそのまま最前線部隊の継戦能力に直結しますが、特に陸軍にとっては輸送トラックの存在が不可欠です。

第二次世界大戦において、モスクワ目前で撤退を余儀なくされたドイツ軍と反撃を通じてベルリンまで到達できたソ連軍の明暗を分けたのは、大量のトラックを用いた補給能力の差といわれています。

この点を十分理解しているアメリカは、いずれの戦争においても補給線の確保を重視してきました。

例えば、米軍を中心とした約70万以上の兵力、1,600機近い航空機と1,800両以上の戦車を投入した湾岸戦争では、これらの巨大戦力を支えるためにひっきりなしに多数の輸送機や船舶、そして大量のトラックを稼働させました。

燃料を大量消費する戦車や装甲車が実力を発揮するには補給拠点から前線まで燃料を運ぶトラックが必須で、最強と謳われながらも燃費が悪い欠点を持つ米軍のM1エイブラムス戦車を裏で支えているのは「M978フューエルタンカー」のような燃料トラックなのです。

⚪︎基本性能:M978フューエルタンカー

重 量 約18t(車体のみ)
全 長 10.2m
全 幅 2.4m
全 高 2.8m
乗 員 2名
速 度 時速100km
行動距離 約650km
輸送力 9,500リットル
価 格 1両あたり約2,000万円

M978フューエルタンカーは主に米陸軍が運用する大型燃料トラックで、 重高機動戦術トラック(HEMTT)と呼ばれる米軍全体で運用されている8輪トラックシリーズのひとつにあたります。

M978のベース車体であるHEMTTは弾薬や燃料などの補給物資の輸送を担う目的で1980年代に開発され、現在も13,000両近くが運用されています。そして、一部は行動不能となった戦車などを牽引する回収車や地対空ミサイルを搭載した派生型として使われています。

HEMTTはそれまでの5tトラックよりも積載能力を大幅強化したのみならず、8つの大型かつ全輪駆動のタイヤによって鈍重そうな外見に反した高い機動性を誇り、悪路における良好な走破性と水深1.2mまでの渡航能力を実現しました。

また、メンテナンスも比較的簡単なうえ、C-130輸送機などに対応した空輸性も持ち合わせているので現場で扱いやすい車両と評価されています。

このようなトラックの派生型であるM978フューエルタンカーは大型車体の利点を生かして9,500リットルもの燃料を搭載できます。

M1エイブラムス戦車の搭載燃料が約1,900リットルという点を考えると、1両のM978で約5両の戦車を動かせる計算になります。

そして、この大容量の燃料トラックは前述の湾岸戦争でその真価を発揮し、装甲部隊の電撃的な侵攻を支えたわけですが、その後もイラク戦争やアフガニスタン戦争でも現地部隊の継戦能力を維持しました。

そんなM978フューエルタンカーはロシアの侵略と戦うウクライナにも約70両が供与されましたが、これは同じく提供されたM1エイブラムス戦車などの稼働を支えて反攻作戦の成功に導く意図に基づくものです。

ウクライナはイギリスによるチャレンジャー2戦車の供与を皮切りに、アメリカのM1エイブラムスやドイツのレオパルト2戦車を運用しているものの、多くの燃料を消費するこれら戦車部隊を使って反撃するには悪路に強く、整備性も良好なM978を活用した兵站線の強化が絶対条件となります。

⚪︎関連記事:洋上作戦を支える海上自衛隊の補給艦と次期構想

コメント

タイトルとURLをコピーしました