洋上作戦を支える補給艦の能力

海上自衛隊
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海上での長期作戦に欠かせない「お供」

広大な海を航行する船は寄港を通じて燃料や食糧、真水の定期的な補給を受ける必要がありますが、しばらくは寄港を見込めない場合や軍事作戦中でのんびり立ち寄っている余裕がない場合は「補給艦」の出番になります。これは外洋をそのまま航行しながら他の軍艦に燃料、食糧、弾薬を供給できる機能を持ち、長期間にわたる海上作戦には欠かせない存在です。

この「洋上補給」は高度な技量が求められ、例えば、燃料供給の場面では給油される側と補給艦はわずか40メートルほどの距離を保ちながら同じ速度で並走せねばならず、両艦の間にワイヤーとホースを渡して補給を実施します。真水の供給でも同じ手法を用いますが、これは自動車でいうと1メートル未満の距離に幅寄せして、そのまま走りながら物を渡すようなものです。

給油ホース(左、赤丸)を使って給油活動をする補給艦(出典:海上自衛隊)

一方、食糧と弾薬の供給はワイヤーを張って、物資を吊り下げながら渡す「ハイライン移送」という方法が使われます。これは吊り下げたカゴに人を乗せて移動させることもできますが、高所にぶら下がった状態で海上を移動するのでかなりスリル感があり、海上自衛隊の新米幹部たちが練習艦で行う遠洋航海の目玉イベントともなっています。

もちろん、補給艦と供給先の艦がともにヘリコプターの運用能力を備えている場合は、ヘリを使った物資輸送も可能ですが、このように洋上補給は軍艦同士が一定の間隔と同じ速度を維持しなければならず、高い操艦技術と手際の良さが求められるものの、それでも寄港するよりは短時間で済むうえ、補給場所も柔軟に選べる利点があります。

活動範囲の拡大を支えてきた海自の補給艦

日本近海のみならず、インド太平洋全域に活動範囲が広がりつつある海自にとっても補給艦はますます重要性をましており、現在は「とわだ型」「ましゅう型」の2種類、計5隻の補給艦を配備しています。

⚪︎基本性能:「とわだ型」「ましゅう型」補給艦

とわだ型ましゅう型
排水量8,100t(基準)13,500t(基準)
全 長167m221m
全 幅22m27m
乗 員140名145名
速 力22ノット
(時速40.7km)
24ノット
(時速44.4km)
航続距離約19,500km約17,600km
補給能力燃料:7,500t
食糧:500kg
燃料:10,000t
食糧:650〜750kg
病床:46床
価 格1隻あたり約330億円1隻あたり約430億円
建造数3隻
・とわだ
・ときわ
・はまな
2隻
・ましゅう
・おうみ
就役期間1987年〜2004年〜

護衛艦の大型化とそれに伴う外洋航行が増えつつあった1980年代、従来の補給艦では能力不足と判断されたのを契機に「とわだ型」3隻が建造されて海自の補給能力は一気に強化されました。そして、2000年代に入って海自の活動範囲が拡大一方になると、さらに補給能力を強化した「ましゅう型」2隻が建造されますが、この2隻は「いずも型護衛艦」が登場するまでは海自最大の艦艇でした。

「ましゅう型」は前級の「とわだ型」に比べて艦艇用燃料および航空燃料の搭載量が約1.5倍に増えたことで汎用護衛艦およそ9隻分の供給能力を持つとされ、新たにフォークリフトやコンベア、エレベーターを設置して食料や弾薬補給時の作業を効率化させました。ほかにも「とわだ型」にはなかった集中治療室を含む46床の医療設備を備えて小さな病院船としても機能するため、災害派遣では各種物資の輸送のほかに医療拠点としても活躍します。

「いずも」登場まで海自最大の艦艇だった「ましゅう型」補給艦(出典:海上自衛隊)

海自の補給艦は護衛艦以外にも、共同訓練を含む諸活動への参加を通じて米海軍やオーストラリア海軍への補給を実施しており、2001年から2010年まではインド洋に派遣された補給艦がアメリカを含む11カ国への給油活動に従事しました。このインド洋派遣は海自にとってペルシア湾の掃海以来の海外派遣任務で、遠方での洋上補給活動を通じてノウハウを学び、実践経験を積む貴重な機会となりました。

海自の活動範囲は今では南シナ海から遠くアデン湾まで及ぶものの、「とわだ型」は建造時には海外派遣を想定しておらず、艦齢も30年を超えて老朽化が進んていることから後継の検討を始めねばなりません。防衛省は洋上に おける後方支援能力強化のために補給艦を増勢するつもりのため、現行の5隻体制からは強化される見通しで、おそらく「ましゅう型」を改良した最新補給艦を建造するのでしょう。ただし、「もがみ型」フリゲートのようなマルチ能力を持つ艦艇によって人手不足を乗り切ろうとする最近の姿勢を考えると、輸送艦などの機能も兼ね備えた多目的艦になる可能性も否定できません。

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