真っ先に駆けつける捜索の「目」
航空自衛隊には遭難した味方パイロットなどを救助するための専門部隊「航空救難団」がありますが、そんな救難部隊に欠かせない航空機が「U-125A」です。ジェット型の救難機であるU-125Aは、ペアを組むUH-60Jヘリコプターとともに全国各地の救難隊に配備されており、捜索及び救助活動に従事しています。
※救難団の役割についてはこちら:救助で大活躍 UH-60Jヘリコプター
⚪︎基本性能:U-125A
全 長 | 15.66m |
全 幅 | 15.60m |
全 高 | 5.36m |
乗 員 | 4名 |
速 度 | 時速820km |
航続距離 | 4,000km以上 |
装 備 | 捜索用レーダー 赤外線暗視装置 |
価 格 | 1機あたり約70億円 |
U-125Aは元々イギリスが開発したビジネスジェットが原型であり、従来のプロペラ型救難機「MU-S2」の後継機として1994年から配備が始まりました。救難機の役割は、真っ先に現場に駆けつけて捜索にあたり、発見した要救助者の位置を後続の救難ヘリに教えることなので、双発のジェットエンジンによって優れた速度と航続距離を持つU-125Aの登場は、救難隊の能力を大きく向上させたと言えます。
U-125Aの本来任務は、戦闘が行われている現場周辺を飛行して、撃墜された味方を救う「戦闘捜索救難」であることから、機体は発見されにくい洋上迷彩を施しています。「救難機なのに発見されにくい迷彩?」と疑問に思うかもしれませんが、最も大事なのは「救難機側が遭難者を発見する」ことです。

では、肝心の捜索能力についてですが、本機は捜索用レーダーや赤外線暗視装置を搭載しており、機体側面には海面捜索用の大型窓も設けられています。そのため、以前よりも捜索能力(特に夜間時)が大幅に向上しており、実際に空自・在日米軍の墜落事故や災害派遣の際には多くの人命を救ってきました。
実際の捜索活動で遭難者を発見した場合、まずは詳細な位置を救難ヘリなどに伝えるとともに、機体下部の装置を使って食糧などの救難物資や発煙・信号筒のような救難用品を投下します。そして、後続のヘリが発見しやすいように遭難者周辺の海面に着色マーカーを投下する場合もあるそうです。

要救助者は投下された物資を使って命をつなぐわけですが、その間もU-125Aは燃料の残量が許す限りは現場を飛び続け、味方が救難ヘリに収容されるのを見届けます。当然、広い海を漂っている側は非常に不安ですが、味方機が飛んでいるのが見える・聞こえるだけでも幾ばくかの安心感を得ることができます。このように「見捨てない」という心理的メッセージを伝えることもU-125Aの存在意義の一つでしょう。
現在、26機のU-125Aが全国各地に配備されてどこでも駆けつけられる体制を整えていますが、対中国を見据えた自衛隊全体の大規模改編が進められる中、人員捻出のためにU-125Aは順次廃止されていくことになりました。後継は導入せず、代わりに要救助者(パイロット)は新しい救命発信機を着けることで位置特定を容易にするそうです。この用途廃止によって約400名の人員が浮くわけですが、救難で大事な初動対応を無線発信機のみに絞るのは不安が残ると言えます。
意外に知られていない「飛行点検」という役割
高性能な救難機として有名なU-125Aですが、実は同じ機体を使った「飛行点検機」というのがあります。我々が普段当たり前のように乗っている飛行機ですが、これらは好き勝手に飛んでいるわけではなく、ちゃんと設定された「道」に基づいて飛行しています。海に航路があるように、広大な空にも航空路があるのです。
そして、これら航空路の交通安全を担当し、飛行機の行き来を安全に誘導するのが全国各地に設けられた航空保安施設ですが、無線や灯火装置を中心としたこれら施設も定期的な点検が欠かせません。

そこで出番となるのが飛行点検機「U-125」であり、実際に飛行しながら自動点検装置を使うことで航空保安施設における異常の有無を確認します。また、空路や航空保安施設の新設時には、最初に飛行して初期点検を行いながら安全を確かめるそうです。したがって、U-125は「航空版ドクターイエロー」とも言える存在であり、飛行点検という業務も日本では国土交通省と航空自衛隊のみが行える特殊なものです。
空自はこの飛行点検機「U-125」を3機導入しましたが、2016年に飛行点検任務に従事していた1機が墜落し、乗員6名が死亡する痛ましい事故が起きました。そのため、現在は2機が入間基地で運用されていますが、後方任務だからといって危険と決して無縁ではなく、こうした命がけの整備・点検任務を通じて空の安全が成り立っているのです。
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