地味だが、兵站を支える頼もしい船
海に囲まれた日本の防衛は、昔から「海上戦力」に懸かっているといっても過言ではありません。
しかし、どんなに強力な海上戦力を揃えても、燃料がなければ船は動かず、戦力として無意味になるので、補給艦や母港の燃料設備が重要になります。
海上自衛隊は他国海軍と同様に補給艦を配備していますが、この補給艦が給油する燃料も、もともとは基地で受け取ったもの。結局、母港(基地)の燃料施設・備蓄量がカギを握るわけで、これらも民間製油所から運ばれてきた燃料を貯蔵しているに過ぎません。
つまり、製油所から基地の燃料施設に対する安定供給がなければ、海自艦艇は戦力をできないのです。
ところが、この「製油所→基地」における燃料輸送は民間委託している関係から、煩雑な発注業務と時間を要します。民間委託は経費削減などのメリットがある反面、自前で行うよりも時間がかかるケースが多く、海自向けの燃料輸送も発注から供給まで最大3ヶ月もかかってしまうそうです。
本来、軍隊というのは自己完結型を目指す組織であって、文字通り生命線となる燃料についてもなるべく自前調達に近い形が好ましいでしょう(突き詰めれば際限はないですが)。
そこで、海自は初めて油槽船、いわゆるタンカーを建造して、製油所から基地までの燃料輸送を自ら実施する体制を目指しました。
⚪︎基本性能:油槽船 YOT-01
排水量 | 4,900トン(基準) |
全 長 | 105m |
全 幅 | 16m |
乗 員 | 14名 |
燃料搭載量 | 6,000キロリットル |
価 格 | 1隻あたり約28.5億円 |
海自初のタンカーとなった油槽船「YOT-01」は、民間の製油所から燃料を直接積み込み、海自の各基地まで運ぶのが役割です。
ほかにも、基地間の燃料輸送を担いますが、民間船への依存度を下げられるため、運用上の柔軟性が増したといえます。

海自は今まで基地の燃料施設から停泊中の艦艇に燃料を運ぶ小型の「油船」はたくさん配備してきましたが、油槽船の配備によって燃料供給網のさらに「上流(製油所→基地)」を自前で行えるようなりました。
油槽船に設けられた6つの燃料タンクは、艦艇向けの軽油や哨戒ヘリ用の航空燃料を約6,000キロリットル(600万リットル)収容可能です。
護衛艦は1キロリットルで約40km航行できるとされているので、6,000キロリットルという数字がいかに膨大か分かります。
現時点で油槽船はYOT-01とYOT-02の2隻体制となる見込みで、前者は2022年4月に呉地方隊に配備されました。
最前線で活動する護衛艦と比べると目立たないものの、この油槽船は「船の血液」にあたる燃料を基地に安定的、柔軟に供給するには欠かせず、その配備は自律的な供給能力につながります。
したがって、自己完結型の組織を目指すうえで、この非武装・非戦闘船のタンカーが持つ意義は極めて大きいのです。
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