対潜の鬼・P-3C哨戒機
海上自衛隊は規模・能力ともに世界有数の海軍力を持ちます、その中でとりわけ秀でているのが「対潜水艦能力」です。そもそも、海の忍者とも呼ばれる潜水艦を発見するのは非常に困難であり、最強の軍艦たる原子力空母やイージス艦も、潜水艦による雷撃の前には脆弱です。そのため、この「潜水艦を発見することが出来るか否か」という点が現代海戦においては大きな意味を持ちます。
海上自衛隊の前身である帝国海軍は、アメリカの潜水艦によって多数の軍艦、輸送船を撃沈されるという苦い経験をしています。当時の日本海軍の対潜能力は米英のそれと比べると劣っており、対潜哨戒に本腰を入れ始めた時期が遅かったのも相まって、海上輸送路はほぼ破壊されました。この前大戦の反省から、海上自衛隊は対潜哨戒に並々ならぬ努力を注ぎ、対潜能力に限って言えば、米海軍をも上回ると言われたほどです。そんな海自の対潜能力を支える柱の一つが今回紹介する「P-3C哨戒機」です。
⚪︎基本性能:P-3C哨戒機
全 長 | 35.8m |
全 幅 | 30.4m |
全 高 | 10.3m |
速 度 | 時速607km |
乗 員 | 11名 |
航続距離 | 最大6,751km |
価 格 | 1機あたり約100億円 |
愛称「Orion(オライオン)」で親しまれているP-3Cは、旅客機をベースにアメリカが1950年代に開発した哨戒機P-3の派生型です。元々のベースが旅客機だったことから、多くの機材を配置できたり、改造がしやすい利点から、半世紀以上が経った今でも世界各国で使われているベストセラーです。哨戒機に必要な長時間滞空能力も付与されており、空中給油能力がないにも関わらず、最長15時間の飛行が可能です。また、機体の頑丈さも売りの一つであり、未だに各国で長いこと使われている要因です。
肝心の対潜能力については、機体の下部からソノブイ(潜水艦を探知するための簡易ソナー)を投下したり、赤外線暗視装置やレーダーを使って潜水艦を発見できます。よく言われているのが、1機で四国と同じ面責の海域をカバーできるという点です。また、実際の性能を表すエピソードとして、「P-3Cショック」があります。これは、同機が配備されて間もない1983年の演習で、P-3Cが次々と潜水艦を発見し、優位性を誇っていた潜水艦隊にショックを与えた出来事です。それだけ、P-3Cの哨戒能力は当時としてはかなり優れていたのでしょう。

P-3Cは機体の頑丈さに加えて、拡張性も高いため、常に能力のアップグレードを続け、一部機体は情報収集や電子戦を想定したものへと改造されました。また、近年は対潜哨戒だけではなく、海賊対処や不審船対策のための洋上監視任務(パトロール)に従事することが多くなりました。他にも輸送や救難、観測任務にも従事しているため、その汎用性を表すために、現在では呼称を「対潜哨戒機」から「哨戒機」と変更しております。
順次引退していくP-3C
前述のように、海上自衛隊は先の大戦における教訓から「対潜戦においては右に出る者はなし」と評されるほどの力をつけました。これは、冷戦期においては、海上自衛隊そのものがアメリカ第7艦隊の補助部隊という位置づけであり、米海軍の支援(対潜戦、対機雷戦)を見据えていたのも一因です。
しかし、優秀な対潜哨戒機であるP-3Cを米海軍すら200機ほどしか有していなかったのに、日本は100機以上を配備していました。しかも、米海軍とは異なり海自の担当海域は日本周辺のみです。限られた海域に対して、100機以上のP-3Cを投入する点に「絶対に発見する」意志が感じられます。

そんな海自の対潜能力を大幅に向上させ、長年支えてきた同機ですが、老朽化を前に後継機のP-1哨戒機に座を譲っている最中です。退役した機体の一部をマレーシアやベトナムに売却もしくは供与する話も出ていますが、老朽化と高い維持費に見合うだけの価値があるかは微妙です。さらに、売却するにせよ、供与するにせよ、そのまま引き渡すわけにはいかず、レーダーを含めた機密装備をどうするのかが気になります。
このように順次引退している同機は、最盛期には100機体制だったのが、今では保有機数は44機となりました。それでも、ソマリア沖の海賊対処任務などには現役で従事しており、パトロール任務では今後もしばらくは使われ続ける予定です。
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