民間のコンテナ船だった
アメリカ軍の強さは、多くの兵員や装備、物資をすばやく投入できる点にありますが、これに欠かせないのが豊富な海上輸送力です。
この海上輸送力を確保すべく、強襲揚陸艦やドック型輸送艦を運用しているとはいえ、これらだけでは到底足りず、より建造費の安い民間船を改造するなど、いろいろ試行錯誤してきました。
なかでも、圧倒的輸送力と変わった経歴を持っていたのが「アルゴル級」車両貨物輸送艦でした。
- 基本性能:「アルゴル級」車両貨物輸送艦
排水量 | 55,350t |
全 長 | 288m |
全 幅 | 32m |
乗 員 | 55名 |
速 力 | 33ノット(時速61km) |
輸送力 | 最大700両の軍用車両 |
「アルゴル級」の人生は民間のコンテナ船として始まり、「SL-7型」として1970年代に合計8隻が建造されました。これは大型貨物船でありながら、33ノットという高速を誇り、当時は世界最速のコンテナ船として海運業界に衝撃を与えました。
ところが、同時期に起きたオイルショックを受けて、高速航行力の代償として高かった燃料費がさらに高騰してしまい、その性能はコスト的に見合わなくなります。
その結果、これらは1980年代に米海軍に全て売却されました。
全長288mの貨物船にもかかわらず、高速航行できる点が輸送力強化にピッタリだったわけです。
こうして8隻のコンテナ船は、「アルゴル級」車両貨物輸送艦として海軍所属になりました。
実戦投入と予備保管行き
もともとコンテナ船として造られたため、「アルゴル級」は多量の補給物資や最大700両もの車両を運べる能力を持ち、クレーンや車両用の乗降ランプ、ヘリの離着艦スポットまであります。
大量に運べるのみならず、すばやく港湾に揚陸できることから、湾岸戦争やイラク戦争での戦力展開・兵站維持で大活躍しました。
特に湾岸戦争では50万人以上の米軍が投入されたなか、これらを支える装備や物資をアメリカ本土から前方拠点のサウジアラビアまで運び込みました。このとき、輸送貨物の約13%が「アルゴル級」によって運ばれたそうです。
イラク戦争でも、絶え間なく消費される補給物資を中東まで運び、ほかにもソマリアやコソボへの軍事作戦で使われてきました。
また、人道支援任務でも役立ってきたものの、現在は国防予備船隊として保管状態にあります。
すでに建造から半世紀が経ち、船体の老朽化が進むなか、いまの米海軍はかつてほどの海上輸送力がなく、すばやく大量に運べる「アルゴル級」は廃棄するには惜しい存在です。
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