陸自が誇る「和製ジャベリン」
対戦車ミサイルの登場は歩兵が戦車に対して本格的に対抗できる術を与えたのみならず、歩兵火力そのものの大幅な増強をもたらしました。なかでも、戦車からヘリまで攻撃できるアメリカ軍のジャベリン・ミサイルはイラク戦争から2022年のロシア=ウクライナ戦争で絶大な戦果を挙げ、後者では「戦車不要論」が取りざたされるほどの撃破数を積み重ねています。
突如始まったロシアによるウクライナ侵略で思わぬ脚光を浴びている対戦車ミサイルですが、陸上自衛隊も対戦車戦を見据えた歩兵火力の充実を図ってきた歴史があり、その中に「和製ジャベリン」とも称される対戦車ミサイルが存在します。それが「01式軽対戦車誘導弾」であり、世界的な注目を集めるジャベリンと似たシステムの装備です。
⚪︎基本性能:01式軽対戦車誘導弾(LMAT)
全 長 | 9.7m |
直 径 | 140mm |
重 量 | 11.4kg (ミサイル本体) |
速 度 | 毎分4km |
射 程 | 1,000m以上 |
弾 頭 | 成型炸薬弾 |
価 格 | 1セット約2,600万円 1発あたり約2,000万円? |
「01式軽対戦車誘導弾」、通称「LMAT」は84式無反動砲の後継として川崎重工業が開発し、2001年に正式採用された陸上自衛隊の個人携行型対戦車ミサイルです。同時期に登場したアメリカ軍のジャベリンと外見が似ており、同じ赤外線画像による自律誘導能力を有するなど、コンセプトや運用面での類似点が多く見られます。
LMATはロックオン時に入力された情報に基づいて飛翔し、自ら赤外線誘導を使って追尾する「撃ちっ放し」能力を持ちます。この点もジャベリンと同じであり、撃った隊員はすぐ退避できるうえ、後方への爆炎(バックブラスト)も抑えられているので、軽装甲機動車のハッチを開けてそのまま撃つことも可能です。

攻撃には通常のモード以外に、高く飛翔した後に天頂方向から突っ込む「トップ・アタック」モードがありますが、これは戦車の弱点である上部を狙い撃ちにすることで確実な撃破を狙ったものです。さらに、ミサイルの弾頭には成形炸薬を二重に配置しているため、敵戦車の爆発反応装甲を無効化する効果が期待できます。
このようにジャベリンと互角の性能を有していると言える国産のLMATですが、気になる射程については公表されておらず、あくまで演習時の様子から1,000mは優に超えると推測されているに過ぎません。ただ、ジャベリンと同じコンセプトの兵器であることを考えると、最大射程もほぼ同等の2,000m程度ではないでしょうか。
本家ジャベリンとの違いは何か
では、LMATはジャベリンと何が違うのか?
まず、大きな相違点として重量が挙げられます。LMATは総重量ではジャベリンの22.3kgよりも軽い17.5kgとなっており、欧米よりも体格で劣る日本人向けとも言えます。ただ、ジャベリンと違ってLMATは1名で運用するため、予備弾も含めて結局30kg以上を単独で担ぐケースもあるそうです。
また、ジャベリンは目標にロックオンする際、赤外線装置を2〜3分ほど冷却せねばならないのに対し、LMATは対戦車ミサイルとして世界で初めて非冷却型の赤外線装置を搭載しているため、ジャベリンよりも素早く撃つことができるとされています。そのため、理論上は毎分4発の発射が可能であるものの、通常は位置がバレて反撃を受ける前に退避するので、一箇所で継続的に撃ち続ける状況は考えにくいです。

他にも、ジャベリンが戦車などの装甲車両以外にも建物や陣地も攻撃できるのに対し、LMATはシステムの起動に熱感知が必要なため、こうした目標には使えません。あくまで車両に対してのみで使える兵器なのですが、これを「欠陥」と捉える意見もあるそうです。
確かに、車両以外の目標に対応可能という点ではジャベリンの方が汎用性が高いかもしれません。しかし、あくまで「対戦車ミサイル」という観点で見るならば、LMATは国産装備としてジャベリンに引けを取らない装備と評価しても良いでしょう(証明する実戦での戦果はないが)。
結局、LMATとジャベリンの共通点、相違点を大まかにまとめると以下のようになります。
共通点 | 相違点 |
・撃ちっ放し能力 ・後方爆炎の抑制 ・通常モードとトップアタックの選択 ・成形炸薬弾頭の二重配置 | ・装備重量:LMATの方が軽い ・操作人数:LMATは1名、ジャベリンは2名 ・対応目標:LMATは車両のみ ・赤外線装置:LMATは非冷却型 |
運用時の細かい点で少し異なる両者ですが、LMATは歩兵が持てる「戦車キラー」としては十分な威力を有しており、わざわざ同じコンセプトのジャベリンを自衛隊に導入する必要はないと言えます。むしろ、微妙に違う二つの類似兵器が混在すると現場は困るでしょう。
陸上自衛隊は既にLMATを1,070セット以上(弾数とは別)を配備してきましたが、今回のウクライナで改めて対戦車ミサイルの有効性が証明されたので、LMATの増産もしくは改良版を含めた後継の選定に注力するかもしれません。
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