撃ちっ放しできる対地ミサイル
ロシア=ウクライナ戦争において、西側がウクライナに多くの軍事支援を行うなか、イギリスは欧州勢では最初から熱心でした。
それは戦争初期のN-LAW対戦車ミサイルから始まり、いちばん最初に戦車供与を表明した姿勢からもうかがえます。
これら兵器と比べて地味ながらも、じつは「ブリムストーン2」という対地ミサイルも提供していました。
- 基本性能:ブリムストーン2
重 量 | 52.7kg |
直 径 | 0.18m |
全 長 | 1.8m |
速 度 | マッハ1.3(時速1,600km) |
射 程 | 40km〜60km |
価 格 | 1発あたり約2,700万円 |
ブリムストーン・ミサイルはあまり馴染みがないものの、ユーロファイター・タイフーンや攻撃ヘリによる対地攻撃を行うべく、イギリスが1990年代後半に開発した空対地ミサイルです。
長距離から敵の装甲戦力を狙い、その確実な撃破を目指したところ、弾頭部分はあのジャベリンと同じ二段構えの成形炸薬弾を採用しました。
これは戦車の装甲に当たると、弾頭内部の金属が高温・高圧で変形しながら、そのまま貫く仕組みですが、旧ソ連戦車にみられる爆発反応装甲にも有効なので、現代のロシア戦車を余裕で破壊できます。
しかも、通常はひとつのミサイルしか装着できない箇所に、ブリムストーンは最大3つまで搭載できるため、戦闘機あたりの兵器搭載量を増やしました。
1つの設置箇所に3本も載せられる(出典:イギリス空軍)
パイロットは敵を直接的に視認せずとも、機上の照準装置で目標を選べるほか、ミサイルは自分のレーダーで向かう自律誘導機能(撃ちっ放し能力)を持ち、自ら目標を選んだり、最も効果的な突入方法を計算できました。
また、同時に複数のブリムストーンを発射したうえで、それぞれがタイミングを微妙にズラしながら、同じ目標を攻撃する芸当も披露してきました。
敵の装甲戦力などが相手であれば、こうした能力は大きな戦果につながるものの、アフガニスタン戦争やイラク戦争では民間人の巻き添えを避けるべく、厳しい運用制限が課せられました。
その結果、ブリムストーンはそのままでは使えず、新たにレーザー誘導方式を加えたタイプを開発します。
自律方式・レーザー方式の併用により、入り混じった状況から敵を見つけ出しながら、動く目標に対しても精密攻撃できるようになりました。そして、実際にアフガニスタンやリビアで数百発を投入したところ、その命中率は95%という数値にのぼりました。
ブリムストーン2で射程延伸
その後、射程を12kmから40km超まで伸ばして、高速で動く目標にも対処できる「ブリムストーン2」が2016年に登場しました。
その性能は発射試験において、時速100kmで走る車両を狙い撃ちするほどで、小型の高速ボートなどにも対応可能です。
現在は地上発射型の「ブリムストーン3」もあるとはいえ、ウクライナに供与されたのはブリムストーン2であって、トラックの荷台から撃てるように応急改良されているようです。
航空機での運用と比べて、これら現地改良型は射程が劣るものの、到着後すぐに数両のロシア戦車を撃破しており、その命中精度は問題ありません。また、小型ボートから発射されたものが、ロシア軍の貴重なS-400防空システムを破壊するなど、決して小さくない戦果をあげています。
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