「全ての爆弾の母」が誇る破壊力
圧倒的な破壊力を持つ兵器といえば核兵器が思い浮かぶでしょうが、通常兵器でもズバ抜けた威力を誇る爆弾があります。
それがアメリカが開発した「MAOB(モアブ)」であり、2003年の開発時点では通常兵器として最大の破壊力を有すると言われていました。
MOABは大規模爆風爆弾兵器を意味する「Massive Ordnance Air Blast Bomb」の略ですが、あまりの威力の大きさから「Mother Of All Bombs(全ての爆弾の母)」と呼ばれることが多いようです。
この辺りは略称が得意なアメリカのセンスに改めて脱帽ですね。
⚪︎基本性能:MOAB(GBU-43/B)
重 量 | 9,800kg |
全 長 | 9.18m |
直 径 | 1.03m |
炸薬量 | 8,480kg |
価 格 | 1発あたり約17億円 |
MOABは圧倒的な破壊力によって敵に衝撃と恐怖を与える兵器として2003年に開発されたものの、巨大すぎてB-52爆撃機にも搭載できず、攻撃時はC-130輸送機からパラシュート投下されます。
通常、航空機から投下される爆弾は大きいもので約900kgですから、単純計算でMOABは10倍の大きさを誇り、炸薬量については20倍近くになります。
こんな全長9m以上、炸薬量8.5トンの化け物が頭上に降ってくると考えれば絶望的であり、敵にとってはまさに戦意喪失もの。

そんなMOABは高高度から投下されるとGPSによって目標まである程度誘導され、地上から1.8mほどの高度で爆発します。
あえて空中で爆発させることで全方向に広がる強烈な爆風を発生させ、地上のみならず地下の目標をも破壊するのです。
実は地上に当たってから爆発させるよりもこの方が威力が高いらしく、MOABは最も効果的に高い破壊力を発揮できるように計算されたうえで作られています。
前述のように通常の爆弾を20個近くまとめたようなものであり、爆風の範囲は半径1.5km以上にもなるそうです。
したがって、落とされた地点付近の建物や車両、そして人は簡単に吹っ飛び、要塞化された地下施設でも破壊できます。とはいえ、この爆発エネルギーは広島に落とされた原爆の約1000分の1であり、核兵器と比較すると恐ろしいことに「小さな」威力なのです。
実戦はイスラム国に対する1度のみ
通常兵器として最強クラスの威力を持つMOABを開発したアメリカですが、実際に使ったことあるのは1回のみであり、それも正規軍ではなくテロ組織に対して。
2003年のイラク戦争時に実戦配備したものの、結局は使用しませんでした。
唯一の実戦経験が2017年4月にアフガニスタン東部のイスラム国に対する投下であり、この時は地下トンネルごと陣地を破壊して90人以上のテロリストを殺害したと思われます。
この実戦で目論見どおりの威力を発揮したMOABは、遠くからでも見えるほどのキノコ雲を発生させ、「全ての爆弾の母」が持つ力を全世界に知らしめました。
一方、テロリスト相手に1発17億円以上の爆弾を投入したことに対して費用対効果が悪いとの批判も受けました。
さて、1発で地下陣地をも破壊し尽くすMOABですが、これに対抗してロシアや中国も似たような爆弾を開発しており、特にロシア版は4倍の威力を持つ気化爆弾だそうです。
そのため、ロシア版の爆弾は「全ての爆弾の父(FOAB)」というニックネームが付けられていますが、さすがは世界最強の核爆弾「ツァーリ・ボンバ」を作った国なだけあります。
現在、アメリカは20発ほどのMOABを保有していますが、費用対効果の観点ではなかなか使い所が難しいといえます。
MOABはGPS誘導による一定の命中精度は期待できるものの、そもそも大きな爆風で周囲もまとめて破壊するための兵器であり、精密攻撃や巻き添え回避が求められる現代戦ではそんなに出番がありません。
軍事基地そのものを破壊したり、平地に展開した敵を攻撃する際は使えますが、それでもトマホーク巡航ミサイルや通常の誘導爆弾が使用されることが多いです。
しかし、「使えない」核兵器に代わって衝撃と恐怖を与える意味では効果的であり、物理的に絶大な破壊力を持つと同時に心理的なダメージをもたらす兵器でもあるのです。
コメント