イギリス・スウェーデンが共同開発した「戦車殺し」
2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵略戦争では対戦車兵器の有効性が改めて着目され、特にアメリカが供与したジャベリン対戦車ミサイルはウクライナ側から「聖ジャベリン」と呼ばれるほど重宝されました。
しかし、ウクライナへの軍事支援ではアメリカの存在が注目されがちですが、実はイギリスも軍事支援にかなり熱を入れており、対露配慮から躊躇するドイツとは対照的に兵器供与という点では欧州勢ではトップクラスです。そんなイギリス製兵器の中でロシア戦車を撃破するのに役立っているのが携行式対戦車ミサイル「NLAW」となります。
⚪︎基本性能:NLAW対戦車ミサイル
全 長 | 1.1m |
直 径 | 115mm |
重 量 | 12.5kg |
弾 頭 | 1.8kg (成形炸薬弾) |
速 度 | 最高:秒速200m |
射 程 | 有効射程:600〜800m 最大射程:1,000m |
価 格 | 1発あたり約500万円 |
NLAWはイギリスとスウェーデンが共同開発した携行式の対戦車ミサイルであり、たった1名の操作要員で戦車を撃破できる破壊力を誇ります。開発国以外にもマレーシアやインドネシア、スイスなどが導入しており、現在に至るまで2万発以上が生産されましたが、そのうち2,000発がイギリスからウクライナに供与されてロシア軍との戦闘で大きな戦果を挙げました。
高い命中率が「売り」のNLAWですが、その秘訣は慣性航法装置を利用した軌道修正にあります。まず、目標を発見した射手は数秒間の照準及び追尾を行いますが、この時に目標との距離等の情報がミサイルに入力されます。

発射されたミサイルは慣性航法装置によって算出された数値と事前入力の情報を照合することで誤差を自動修正しながら目標に向かうため、戦車のような動く標的であっても未来予測位置に基づいての命中が可能です。さらに、NLAWの弾頭は光学及び磁気センサーで起爆する信管を使っているため、最もダメージを与えられる距離や位置を計算したうえで確実な撃破を狙えます。
また、後方爆炎の抑制や数メートル飛翔してからのメインロケットへの点火など、射撃による位置の露呈をなるべく回避する工夫が施されていますが、NLAWはジャベリンと同様に「撃ちっ放し」のミサイルであるため、発射後は反撃を受ける前に速やかに退避することができます。
「聖ジャベリン」との違い
さて、ジャベリンと似た点も多いNLAWですが、相違点は何でしょうか?
まず挙げられるのが「誘導方式」です。
NLAWは前述のように慣性航法を利用して目標に向かいますが、ジャベリンは赤外線画像を使ったシーカーによる誘導方式です。後者の場合、シーカーが目標を捉えている限りは遠距離であっても高い命中精度を期待できますが、目標が放出する赤外線が少ないと逆に正確な攻撃が難しくなります。とはいえ、NLAWの方も未来予測に基づいて飛翔するため、目標が急に進路を変えたり、想定外の動きをした場合は外れやすいです。
他にも、弾頭の成形炸薬弾に両者の違いが見られます。
NLAWもジャベリンも同じ成形炸薬弾を採用しているものの、NLAWの方は真下に起爆するように設計されています。これは、戦車の上部を狙うトップアタックを重視した結果ですが、同じトップアタックモードでもジャベリンはそのまま弾頭が直撃するのに対して、NLAWは直撃させずに目標の真上で起爆します。
通常、戦車に対しては弾頭を直撃させた方が効果的なのですが、装甲が薄い上部は弱点であることから直上起爆でも十分な貫通力を発揮できるそうです。また、トップアタックモードではジャベリンは150m以下の距離では射撃できないのに対して、NLAWは20mほどの距離でも使用可能であり、近距離の目標への攻撃ではNLAWの方が軍配が上がります。
ここで一つ注意したいのが、NLAWも弾頭を直撃させるダイレクトアタックモードがある点。しかし、既述のように真下への起爆が設定されているので直撃してもジャベリンほどの効果は期待できず、主に装甲のないトラックなどに対して使うそうです。
NLAWとジャベリンの主な相違点は以上ですが、他にもNLAWの方が10kg近く軽かったり、価格も安い特徴があります。どっちが優れているかと判断するのは難しいですが、戦車に限定した攻撃に用いるならば、NLAWの方がコストパフォーマンスが良いと考えます。
兵数では勝るが、戦車・火砲数では劣るウクライナ軍にとってはどちらも貴重な火力であり、まさに窮地における「恵み」と言える存在。実際、NLAWも多数のロシア戦車を撃破しており、戦争序盤のロシア軍機甲部隊への痛撃における功労者の一つです。したがって、開発された本来の役割を戦場でしっかり果たした兵器と評価されることでしょう。
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