「こんごう型」の発展版として登場
海上自衛隊は現在「神の盾」の名を持つイージス艦を8隻運用していますが、そのうち半数は1990年代に就役した日本初のイージス艦「こんごう型」であり、その「こんごう型」の発展型として2007年に登場したのが「あたご型」イージス艦です。
⚪︎基本性能:「あたご型」イージス艦
排水量 | 7,750t (基準) |
全 長 | 165m |
全 幅 | 21m |
乗 員 | 300名 |
速 力 | 30ノット (時速56km) |
兵 装 | ・5インチ速射砲×1 ・20mm CIWS×2 ・垂直ミサイル発射基 (VLS)×96 ・対艦ミサイル×8 ・3連装短魚雷発射管×2 |
艦載機 | SH-60K哨戒ヘリ×1 |
価 格 | 1隻あたり約1,400億円 |
「あたご型」イージス艦は「こんごう型」の能力向上型、そして老朽化した「たちかぜ型」ミサイル護衛艦を置き換える存在として建造されました。基本的には「こんごう型」の設計を踏襲しているものの、後部にヘリ格納庫を設けたり、ステルス形状のマストや主砲を採用している点などで異なります。
特に格納庫の設置によって「こんごう型」にはない航空機運用能力を付与されたわけですが、通常は哨戒ヘリを搭載しておらず、航空要員も乗艦していないそうです。あくまで必要に応じてヘリと要員を搭載する運用なのでしょう。

「こんごう型」との比較という意味では主砲がイタリア製の127mm速射砲から米海軍の標準装備である5インチ速射砲に変わっており、発射速度や旋回速度は若干劣るものの、こちらの方がイージス・システムとの相性が良いとのこと。
護衛隊群における防空担当ということもあり、対空ミサイルは汎用護衛艦で見られるシースパローではなく、より長射程のSM-2を装備しており、アスロック対潜ミサイルとともに垂直ミサイル発射基から放たれます。
アップグレードされたイージス・システムは弾道ミサイルも撃墜可能
さて、肝心のイージス・システムについてですが、「あたご型」は当初は「ベースライン7.1」と呼ばれるバージョンを搭載していました。これは「こんごう型」が搭載する「ベースライン5」よりも性能が上であり、同時期に建造された米海軍のイージス艦や韓国の世宗大王級イージス艦と同じです。
一方、弾道ミサイルの迎撃(BMD)に関しては就役時はあくまで追跡と捜索しかできず、迎撃する能力はありませんでした。しかし、その後イージス・システムが「ベースライン9」へアップグレードされたのに伴い、弾道ミサイル防衛用の「イージスBMD5.0」システムも導入されて迎撃能力が付与されました。
実際、「あたご」は2018年にハワイ沖で模擬弾道ミサイルに対する迎撃試験を行っており、SM-3ミサイルを用いて撃墜に成功しています。同型艦の「あしがら」も BMD改修されているものの、迎撃試験はまだ実施していないようです。
また、この改修によって通常の対空戦闘とBMDを同時に行うことも可能になり、現時点では搭載予定はないものの、最新の長射程対空ミサイル「SM-6」も運用できます。さらに、このBMD改修時に対潜システムの近代化改修も行われており、潜水艦に対する探知能力も向上しました。
近代化改修のおかげで最新の「まや型」とそんなに変わらない?
海自の2代目イージス艦として登場した「あたご型」ですが、就役したその年に漁船との衝突事故が発生していきなり世間の注目を浴びてしまいます。漁船の乗組員2名が死亡したこの事故は見張りや回避義務を巡って大きな論争を呼び、マスコミの過熱報道も相まって「あたご」を含む海自には厳しい目が向けられました。
就役当初から「最新のイージス艦が小さな漁船との衝突を回避できなかった」というマスコミの批判を浴びることになった「あたご型」ですが、その後は同型艦の「あしがら」も含めて事故なく無事に各任務を遂行しており、特にBMD対応に追われる「こんごう型」に代わってアメリカやオーストラリアとの共同訓練に参加する姿がよく見られます。

そんな「あたご型」ですが、最新のイージス艦「まや型」と比較した場合はどうなのか?
「まや型」は「あたご型」をベースに設計されたものの、電気推進を採用したことで排水量は増大していて、イージス・システムも最新のベースライン9Cを搭載したことで、最初から弾道ミサイル迎撃能力が付与されました。一方、「まや型」の特徴といえる共同交戦能力(CEC)については「あたご型」もイージス・システムの更新によってCEC能力を獲得したといわれており、「まや型」とさほど変わらない性能になったようです。
日本初のイージス艦として防空、そしてBMDを支えてきた「こんごう型」4隻は建造から30年が過ぎており、その近代化改修と艦齢延命工事には限度があるため、アップグレードされた「あたご型」の重要性は増すばかりでしょう。
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