対潜用の「ロケット+魚雷」
潜水艦というのは水上艦にとって大きな脅威で、爆雷投下からロケット弾にいたるまでの対抗策を模索してきました。そんななか、画期的な対潜兵器として登場したのが「アスロック対潜ミサイル」です。
潜水艦への長距離攻撃ができるこの兵器は対潜兵器の代名詞にもなり、西側諸国では改良型を含めて標準装備として扱われています。
海上自衛隊も長年運用しているため、わりと馴染みのある対潜兵器ですが、漫画「ジパング」に出てくるアスロック米倉から知っている人も多いかもしれません(太平洋戦争にタイムスリップした海自イージス艦が、いきなり米潜水艦にアスロックを放つシーンが元ネタ)。
- 基本性能:アスロック対潜ミサイル
RUR-5 (初期型) |
RUM-139 VLA (最新型) |
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全 長 | 4.5m | 5m |
直 径 | 0.33m | 0.36m |
重 量 | 約490kg | 約748kg |
速 度 | マッハ0.8 | マッハ1.0 |
射 程 | 10km | 22km |
価 格 | 約1億円 | 約1億円 |
アスロックは対潜ロケットを意味する「Anti-Submarine ROCket」の略称で、簡単に言うと短魚雷にロケットブースターを付けたものです。すなわち、近くの潜水艦には三連装発射管などから短魚雷を放ち、遠くにいる場合はアスロックを用いる形で使い分けます。
アスロックの開発自体は1950年代とかなり古く、アメリカでは1960年代から使っている長寿兵器のひとつです。それまで主流だった爆雷や対潜ロケットよりも射程が長く、より確実に撃破できることから有効な対抗手段として注目されました。
使い方については、まずは探知情報に基づいて飛翔距離や方位、深度などを設定します。
設定されたところまで飛んだ後、パラシュートを開いて弾頭部分の短魚雷を着水させます。そして、この短魚雷はそのまま予定深度まで進んで、潜水艦を捜索・追尾しながら撃破するわけです。
ちなみに、短魚雷は音響情報を頼りながら目標を捉えるので、発射母体から誘導できるミサイルと違って、アスロックは基本的に1発ずつしか使いません。同時に複数の短魚雷を放てば、それぞれの出す音がお互いに邪魔するからです。
アスロックを収めたランチャー(筆者撮影)
また、初期のアスロックが箱型ランチャー(8連装タイプが多い)に収められているのに対して、最近のものは垂直発射システム(VLS)から撃てるようになりました。
1993年に登場したこのVLS対応型は射程距離の倍増に加えて、ロケットにも誘導機能をつけて攻撃精度を高めています。海自では「こんごう型」イージス艦から導入されており、いまではこちらが主流になりました。
独自改良の国産アスロック
各国が愛用しているアスロック・シリーズですが、海自では93式短魚雷や最新の12式短魚雷を採用した独自改良型も使っています。
国産魚雷にこだわるのは旧海軍の系譜を継ぐ海自らしいとはいえ、ここには太平洋戦争で大量の軍艦・商船を潜水艦に沈められた反省がうかがえます。
潜水艦撃破には通常の高性能爆薬でも十分なところ、海自の短魚雷はさらにギアを上げて成形炸薬弾頭を載せました。これは起爆時に流体化した金属が装甲を貫くもので、戦車などに用いられる特殊弾頭です。
潜水艦に対してはオーバーキルですが、これは敵潜を決して逃さないという対潜エキスパートの意地といえます。
厳密にいえば、弾頭部分がオリジナルと異なるため、これら独自改良型はアスロックと同一ではありません。しかし、もはやアスロックは固有名詞よりも兵器の種類そのものを指すようになり、いまでは一般的に国産アスロックと呼ばれています。
ランチャーから放たれるアスロック(出展:海上自衛隊)
このようにアスロックは自衛隊でも対潜兵器の定番となったなか、海自ではさらなる後継として「07式垂直発射魚雷投射ロケット」を開発しました。
新アスロックとも呼ばれるこの最新型では、さらなる長射程化に加えて、飛翔速度の超音速化を実現しました。
潜水艦側にしてみれば、20km以上も離れた場所から超音速で向かってくるうえ、先ほど述べたように殺傷力の高い魚雷が突っ込んでくるのです。これほど嫌な相手はいないでしょう。
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