台湾有事の切り札?JASSM-ERミサイル

ミサイル

自衛隊も導入する統合空対地ミサイル

台湾有事を見据えて自衛隊はトマホーク巡航ミサイルの購入や超高速滑空弾の開発によって敵地攻撃能力の獲得を目指しますが、もう一つの目玉となるのが「JASSM-ER」と呼ばれる空対地ミサイルです。これは米空軍が1990年代に開発したJASSMミサイルを長射程化したもので、Extended Range(射程延長型)を意味する「ER」が付いていますが、900km以上の射程を持つこのミサイルの導入は航空自衛隊にスタンドオフ攻撃能力を与えることになります。

⚪︎基本性能:JASSM-ER

全 長4.27m
全 幅2.41m
重 量1,021kg
速 度亜音速
射 程925km以上
価 格1発あたり約1.6億円

JASSM自体は2009年から配備が開始されたものの、共同開発予定だった米海軍の途中離脱や発射試験の失敗、性能問題の発覚など開発は紆余曲折の連続でした。その後、エンジンをターボジェットからターボファン型に換装して射程を370kmから900km超まで伸ばしたJASSM-ERが2014年に登場しましたが、部品の約70%を共通化することで開発コストは意外にも低く抑えられました。

また、このミサイルはステルス性を意識した設計によって大きさの割にはレーダーに映る面積が低く、亜音速でありながら迎撃が難しいと考えられています。発射後の誘導はGPSおよびミサイル自身のセンサー類によって目標に向かい、最終段階では赤外線画像を使いながら突入しますが、データリンク機能が付与されているので途中で軌道修正することが可能です。

JASSMシリーズはB-52爆撃機やF-15戦闘機、F-35ステルス戦闘機などで運用されますが、F-35の場合は外付けになるのでせっかくのステルス性能が損なわれます。実際には24発も搭載できるB-1爆撃機での運用が本命で、台湾有事でも敵の射程圏外から出撃したB-1による長距離攻撃が有力視されています。他にも、面白い運用方法としてC-130H輸送機からパラシュート付きのパレットコンテナで投下した後、点火して目標に向かわせるというのが存在します。

輸送機から投下されるJASSM(出典:アメリカ空軍)

現在、アメリカ以外ではオーストラリアとポーランド、フィンランドがJASSMを購入済みで、日本もこれに続くことになりました。日本はF-15J戦闘機を改修してJASSM-ERを搭載できるようにしますが、これは今まで誘導爆弾ぐらいしか運用してこなかった空自の対地攻撃能力を一気に向上されることを意味します。ちなみに、JASSMを対艦攻撃に特化させた派生型「LRASM」ミサイルも当初は導入するつもりでしたが、こちらは改修費用の増大を受けて中止となり、射程延伸型の12式地対艦ミサイルで代替することになりました。

本命に代わってJASSM-ERが台湾有事を決する?

さて、日米両国は台湾有事で中国と対峙することを想定して動き出していますが、そんな中でアメリカの有力シンクタンクCSISが台湾を巡る米中戦争のシミュレーションを発表したことが話題を呼びました。同シミュレーションはあらゆる想定に基づいて台湾有事がどう展開するかを記したものですが、特に戦局を左右するほど重要とされたのがJASSM-ERとLRASMでした。

CSISのレポートでは上陸した中国軍を無力化して敗北させるには中国海軍の戦闘艦艇および支援艦艇を撃破して兵站支援能力を奪うことが必須と書かれています。しかし、防空能力を高めた中国軍を撃破するにはスタンドオフ攻撃が求められ、同シミュレーションでもLRASMを満載したB-1爆撃機を安全なアメリカ本土から出撃させることが勝利のカギを握るとされました。ただ、その肝心のLRASMは生産数が少なく、2026年時点の見積もりでもJASSMが3,600発近くも配備されているのに対して、LRASMは空軍と海軍を合わせてもわずか450発程度となっています。

シミュレーションは3〜4週間で5,000発以上の長射程ミサイルを消費する想定ですが、450発ほどのLRASMでは足りない可能性が高いのでまだ数に余裕のあるJASSM-ERを対艦攻撃に投入できるかどうかが気になるところです。一応、JASSM-ERは一定の対艦攻撃能力を持つと見る向きもありますが、詳細は不明のままです。もし、動く水上目標に対しても攻撃可能ならば、LRASMと併用することで中国海軍に対する攻撃力を格段に強化できます。

本来はLRASMの生産に注力をシフトすべきですが、JASSMの方が優先されている現状では同ミサイルに対艦攻撃能力が付与されているかどうかが台湾有事の結果を左右すると言っても過言ではありません。つまり、台湾有事における本命の切り札はLRASMであるものの、数が不足するので結局はJASSM-ERに頼らざるを得ない可能性が高いのです。

⚪︎関連記事:後継ぎ?LRASM対艦ミサイル

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