紆余曲折を経て誕生した「つなぎ役」
アメリカの爆撃機といえば、100年の現役となりそうなB-52爆撃機や世界一高価な飛行機といわれるB-2ステルス爆撃機が有名ですが、滑らかな外見と「ランサー(槍騎兵)」の異名を持つ「B-1爆撃機」も忘れてはなりません。
⚪︎基本性能:B-1Bランサー爆撃機
全 長 | 44.81m |
全 幅 | 41.67m |
全 高 | 10.36m |
乗 員 | 4名 |
速 度 | 時速1,543km (マッハ1.25) |
航続距離 | 11,978km |
上昇限度 | 18,000m |
兵 装 | 最大56t (機内は34t) |
価 格 | 1機あたり約450億円 |
冷戦期は敵国への核攻撃を行う戦略爆撃機の開発が米ソ両国で進められましたが、こうした状況をふまえて、探知されづらい低空から超音速で侵入して、核爆弾を投下するB-1爆撃機が開発されます。
しかし、試作機「B-1A」が登場した頃には核攻撃の主役が弾道ミサイルに移っていて、密かにB-2ステルス爆撃機の開発も進められていたこともあって、B-1の開発は一旦中止となりました。
その後、軍拡路線のレーガン政権が誕生すると退役予定のB-52と開発待ちのB-2をつなぐ爆撃機としてB-1計画が復活しますが、このときは核攻撃以外のマルチ任務も想定して開発されており、一旦中止されたB-1Aと区別するために「B-1B」と呼ばれます。

では、B-1AとB-1Bの具体的な違いは何なのか?
まず、緊急脱出方法がB-1Aではコックピットごと分離するタイプだったのに対して、B-1Bでは他の航空機と同様に各シートが射出されるタイプに変更されました。
また、エンジンに空気を取り込む部分を固定することでステルス性を向上させたものの、最高速度はマッハ2.0からマッハ1.25に下がりました。
ここで改めて注意したいのは、B-1Aはあくまで4機の試作機しかないので、いま配備されているB-1爆撃機は全てB-1Bになる点です。
こうした開発の紆余曲折を経て誕生したB-1爆撃機はメディアに「死の白鳥」と呼ばれる傾向がありますが、黒い塗装をしているのにもかかわらずこの呼称が使われ続けているのは不可思議です。
これはB-1に対抗して作られ、コピーと揶揄されるほど酷似しているソ連の「Tu-160ブラックジャック」が白い塗装をしているため、こちらと混同したのではないかと思われます。
核兵器を搭載できない戦略爆撃機に改修
黒いのになぜか「死の白鳥」と呼ばれるB-1B爆撃機ですが、最大の特徴は飛行中に翼の形を変えられる「可変翼機」である点です。
ただし、これは離着陸時と飛行時に翼形を変えることで空気抵抗を小さくできる反面、機体の構造が複雑となって重量やコストも増大するので近年の航空機では採用されていません。
さらに、もともと敵国への侵入を前提としていたことから電子妨害や電子攻撃装置、チャフ、フレア、そして曳航式の囮によって自衛能力を高めています。
しかし、登場後は冷戦終結に伴う核軍縮の対象となり、1994年には本来の核攻撃任務から外されたうえで、核兵器自体を搭載できないように改修されました。
したがって、現在のB-1爆撃機は開発時の想定と違って、あくまで通常爆撃用の機体として運用されているわけですが、各種爆弾から巡航ミサイル、機雷に至るまでの幅広い兵器を搭載できる利点は健在で、例えば無誘導の500ポンド(227kg)爆弾ならば最大84発も搭載可能です。
また、「JASSM-ER」のような最新の長距離対地ミサイルにも対応しているので台湾有事では中国軍にスタンドオフ攻撃を仕掛ける役割が期待されています。

このように核攻撃能力はないものの、さまざまな兵器を多数搭載できるB-1爆撃機は「力の象徴」でもあり、牽制目的でグアムに前方配備された機体は主に対中国を見据えつつ、朝鮮半島付近を飛行して北朝鮮にも睨みを効かせています。
一方、実戦ではアフガニスタンやイラクでの戦争、対イスラム国の軍事作戦に投入されて文字通り爆弾の雨を降らせましたが、これら中東での諸作戦を通じて機体の損耗が進んだことから米空軍は従来の60機体制から45機体制に縮小しました。
そして、これら45機もいずれは次期ステルス爆撃機である「B-21レイダー」によって置き換えられる見込みです。
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